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65.突撃!
しおりを挟むしばらくリネン室で待機していた私達は、満を持して舞踏会の会場へと転移する。どうせなら魔力持ちが全員集合した時点で一気に吸収したいとアーサーに伝えたところ、一般的な開演時間と国王陛下が挨拶するであろう頃合いを予測してくれたのだ。
「あれ?師匠の転移先リストでは、ここが大広間だったはずなんだけど…」
「どうやら、大広間の裏にある控え室みたいだな」
控え室と言っても、大広間との間を仕切るのは衝立のみ。どうやら大広間の軽食コーナーに配膳するための、給仕用スペースらしい。私とアーサーは素早くカーテンに隠れたので、忙しく働いている給仕達には気付かれなかったようだ。そこで私達は交信を使って作戦のおさらいをする。
アシュガルトの国王一家が大広間に勢揃いした時点で、私が魔力の吸収を開始。もし…というか、必ず吸収後は昏倒すると思うので、素早くアーサーが私を撤収。問題は、その後どうやって脱出するかだったが、アーサーがコンスタンティンと交信し、コンスタンティンが王家所有の魔道具を使って師匠に連絡を取り、私達を転移させて貰うよう依頼するという段取りになった。
「き、緊張する…」
「大丈夫か、モモ」
冷たくなった指先を、アーサーが優しく擦ってくれて。その温もりで緊張を解した私は、一歩二歩と足を進めて行く。国王の挨拶が始まり、誰もがその姿を注視している今が好機なのだ。カーテン裏にアーサーを残し、これからは私だけの戦いとなる。顔バレしているアーサーは、リネン室にあったシーツで全身を隠しており、それが余りにも目立ち過ぎるためギリギリまで出て来れないのだ。
壇上では国王に変わって王太子が、自身の誕生祝賀会を催してくれたことについて礼を述べている。その朗々とした声に皆が聞き入っている隙に、目的を遂行しなくては。最初はゆっくりと、そして徐々に勢いを付けて。それはまるで更地に一筋の水が流れ、いつの間にかその水量が増して大きな河になっていくようなイメージだ。
流れ込んでくる膨大な魔力に、心の準備は出来ていたはずだった。なのに、身体の方が悲鳴を上げてしまい、思わずその場で膝をつく。息苦しい、まるで体の中に煮え滾ったマグマが流れているようだ。想像を絶する苦痛に大声を上げそうになったが、手の甲を噛んで必死に耐えた。
──と、そのとき。
「なに?この感覚はッ。まるで力が抜けていくみたいだわ…」
「いったいどういうことだ!俺の魔力が消えてしまったぞ!!」
ひとり、ふたりと変化に気付く人が出始め、その声を拾った王太子が周囲を見回す。この場にいる全員から一斉に同じ量ずつ魔力を吸収し続けているので、魔力量の多い王族にまだ力が残っているのは当然なのだが、念のため王太子の固有魔法を鑑定してみる。すると、その結果は…
『索敵』
まずい、このままでは私だけでは無く、アーサーのことまで気付かれてしまう…そう思ったと同時に、王太子がこちらへと駆けて来た。
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