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再びの別れ
しおりを挟む激しい自己嫌悪。
賑やかだった私が急にシュンとしたせいか、佳菜子が隣りで驚いている。
それに反応もせず唇を噛み締めていると、なぜか長澤が近づいてきて…無言で私の頭を撫でた。その表情はまるで『分かってるよ』と言わんばかりだったから。だから、妙に泣けた。
つう、と涙が頬を伝う。
それを見た長澤は、私にしか聞こえない声で小さく『バカ』と呟き。そして笑いながら去って行く。
…林さんと2人で。
後ろ姿を眺めながら、胸が締め付けられるように痛んで漸く気づくのだ。
離れたのに、まだまだ全然好きみたいだと。
そう、私は長澤がとんでもなく好きらしい。
その後。
雑貨店を出て、大荷物を抱えたままコーヒーショップに入った。さすがにもう涙は止まっていて、ボソボソと佳菜子に状況を説明すると、親友であるはずのその人は豪快に笑う。
「そりゃバカだわ。山辺さんのこと、もう好きじゃないんでしょ?さっきの、その長澤さんとやらが好きなら、素直にそっちに行けばいいじゃない。あ、でも、もうあの可愛コちゃんがいるのか~」
アイスコーヒーのストローを口で弄びながら、無言で頷く私。
「恵麻、奪っちゃえ。大丈夫、アンタにはあのコにはない色気がある。その豊満なカラダを武器にして、頑張るのよ!」
「無理だよ~。自分が男だったとしても、林さんを選ぶと思うもん。男は皆んな、ああいう純粋なコが好きでしょ」
すると、佳菜子が心底驚いた顔をしてこう言った。
「だって純粋じゃん」
「へ?」
「私、恵麻ほど純粋な人間を見たことないよ?何やらせてもクソがつくほど真面目だし、そのクセ、要領悪くて手柄をすぐ横取りされる。
飲み会とかでさ、誰かが吐きそうになると皆んな嫌がるのに、恵麻は進んで介抱してた。家飲みすれば、どんなに酔ってても最後まで片付けていくし、ワリカンにすると、必ず端数まで多く払おうとしちゃう。
絶対に人の悪口は言わないし、人の心配ばかりして。ああ、もうとにかく挙げたらキリがないけど、大丈夫、私が太鼓判を押すよ。
恵麻もさっきのコに負けないくらい純粋だから」
…あは。
“後片付け”とか“ワリカン”とか、『純粋』の判断基準、おかしいし。
なのにどうしてだろう。
無性にそれが嬉しくて、涙が溢れて止まらない。
「それにさ、もし私が男だったら、迷わず恵麻を選ぶから、安心しなって」
それをドヤ顔で言うから、思わず大笑いして。やっと『ダメ元で、気持ちだけでも長澤に伝えてみようかな』と決意を固めることが出来た。
その前に山辺さんに本心を伝え、同棲と婚約を解消しなくては。たぶん、長澤にはフラれるだろうけど。フラれるために住まいも結婚話も捨ててしまえる自分は、案外嫌いじゃない。
そんなことを考えながら、佳菜子と別れた。
それからは怒涛の日々で。
自分で自分を追い込むために、新居を決め、引っ越し準備を着々と進めていき。山辺さんとゆっくり話せたのは、更に6日後のことだった。
私から別れたいと告げると、彼はこう答えたのだ。
「そっか、もしかしてバレちゃった?」
「…え?あ、うん」
本当は意味が分からなかったけど、
適当に返事をしたら、悪びれもせず彼は続ける。
「いやあ、俺もハメられたんだって。あんときかなり泥酔しててさ。『大丈夫だから』って言われて、つい。社内のコだし、そう邪険にも扱えなくて。まさか堕ろせとも言えないだろ?」
…へ?
なに、この展開。
社内のコを妊娠させて、そっちと結婚するって。
なかなか帰って来なかったのは、
そっちのコと一緒に暮らしていたからで、
どうやら、また私は愛人扱いだったらしい。
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