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一歩だけ前へ
しおりを挟むああ、そうか。
この人はやっぱり平気で嘘を吐ける人なんだ。
信じようと思ったけど、
信じたいと思ったけど、結局こうなるんだな。
「本当にクソみたいな男ですね、山辺さんって」
「あはは。自分でもそうかなって思う~」
バカだ、私は大バカだ。こんな男に操を立てて、大切な人を失っただなんて。
長澤に会いたい、会って『バカ』と言われたい。
ちょうどそのとき、自分でかけたんじゃないのかと疑いたくなるほどのタイミングで、山辺さんのスマホに着信が。
「ごめん、恵麻。仕事でトラブルが発生したから、もう行くわ。ココしばらく住んでてもイイし、引っ越すときだけ連絡くれないかな?」
そう言って出て行こうとする、その尻を
…ドゴッ!
豪快に蹴った。
そして上手い具合に頭をドアにぶつけ、その痛みでしゃがみ込む山辺さんの耳を掴んで大声で言う。
「オンナをバカにすんのも、大概にしろっての。
いい?もうアンタ父親になるんでしょ?!
ゴチャゴチャ言い訳してないで、
腹を括って、責任とりなさいよッ。
今度、他の女を不幸にしたら、
悪行をすべてネットで拡散してやるからね!
死ぬまで呪ってやるんだから!!
覚えてなさいよッ」
打たれ弱い山辺さんは涙目で私を見たあと、物凄い勢いで去って行く。
「ちぇ。もう1発、蹴ってやれば良かったな」
なんて呟いたあとは、何かの儀式みたくスマホをジーッと見つめること2時間。ようやく決心を固め、長澤へ電話することに。
プルルルル。
話す内容は全然纏まらなかったので、ありのままの感情を伝えようと思ったのだが。
「はい!長澤の携帯電話、代理応答・林です」
何故か、林さんが電話に出た。
ということは、このまま長澤にスマホが渡っても近くに林さんがいるというワケだ。
今カノのすぐ傍で告白を聞くことになるの?
そりゃあ大変だな。
長澤に同情し、やはり直接会って伝えた方がいいかもと思い直す。
うん、そうしよう。
「あの、森ですが長澤…さんは離席中ですか?」
「森さん?あはっ、私、林です。私たち今、婚約パーティーの真っ最中で。よろしければ森さんもいらっしゃいませんか?」
へ?婚約??
展開、早すぎない??
「え、あのでも、迷惑じゃ…」
「きっと長澤さんも喜びますし。今から二次会に移動するので、そちらの地図をすぐに送信しますね。あ、長澤さんが戻って来た。代わりましょうか?」
いいえ結構です、とだけ答えて電話を切った。えっと『デキちゃった婚』…じゃなくて、最近は『授かり婚』って言うんだっけ。もしかしてソレ??
長澤よ、そんなに急いでどこへ行く。
あー、本当に届かない人になっちゃうんだな。
それでも最後に伝えておきたい。
好きですって。
アナタの言うとおり、代わりはいなくて揺るがない、本物の『好き』なんですって。
こんな素敵な気持ちは生まれて初めてで、
教えてくれて有難うございましたって。
きちんと伝えて、しっかりフラれるんだ。
最後に『バカ』と言って貰えたら、嬉しいな。
……………
手早く化粧を直して、戦場へと向かう。
二次会はカラオケBOXで、繁華街の大通りに面した分かり易い場所にあった。取り敢えず婚約祝いのデジタルフォトフレームを慌てて購入し、その足で会場へ到着。颯爽とカウンターに向かったところ、何故かそこに主役のはずの長澤が気持ち悪いほどの笑顔で立っていて。
高まる緊張に軽く身震いしながら、
私は前へと進んだ。
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