泣きながら恋をする

ももくり

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素敵な言葉

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「恵麻ちゃん、こっち」
「な、なになに?」
 
腕をいきなり掴まれ、気付けば誰も使っていない個室へ。そして、なぜかギュウギュウと抱き締められていた。
 
「ああ、もう禁断症状出そうだった。恵麻ちゃん、恵麻、恵麻…」
 
た、助けて!意味ワカンナイんですけど。
 
「あの、長澤?林さんを放置して大丈夫なの?」
「へ?楓ちゃん??子供じゃあるまいし、大丈夫だろうよ。それより、『もう会わない』と言ってたのが電話してきたってコトは、アレだろ?もうアレなんだろ?」
 
アレアレうるさいな。
っていうか、アレって何よッ。
 
「いや、そんなことより、婚約パーティーは?長澤のじゃないの?」
「へ?なんで俺??」
 
そこからは『へ?』と『へ?』のラリーが続き。
 
ようやく判明したのは、婚約したのが新入社員の斉藤さんで、どうやら中学時代から付き合っていた彼女と授かり婚をするらしい。
 
「だって、てっきりそうだと思ったんだもん」
「あのさ、俺が誰と婚約するのかな?」

「は、林さんかなって」
「楓ちゃん?!だからアレは舎弟だってば。しかもあのコ、俺をダミーの想い人に仕立てて、本命は久保さんだからな」
 
「へ?久保さんって、大人で素敵な中堅社員の?」
「恋愛相談されまくりだぞ、俺」
 
「でも、ペアのパジャマを買ってた…よ?」
「斉藤の婚約祝いだし。たまたま俺と楓ちゃんがヒマだったから、買い出し担当になっただけだよ」
 
「だけど、もう会わないって言ったら平気そうで」
「そりゃあさ、俺、彼氏でも何でもないし。文句言える立場じゃないでしょ?それに全然平気じゃなかったよ。恵麻に会いたかった。恵麻の声を聞いて…恵麻に触れたかった。だからさ、もう俺に立場を与えてくれない?彼氏とか恋人とか、そういうハッキリとした立場。そしたら『会わない』って言われても、理由を訊けるし拒否だって出来る。今の俺、友達でもなんでも無いんだ。可哀想だろ?そう思うなら、きちんと立場を与えてくれよ」
 
 
…さあ、言わなくちゃ。
とびきり素敵な言葉を。
 
早く、早く。
 
 
 
「キャ~~ッ!!」「イェ~イ!!」
「ヒャッホウ!!」「うわ~い!!」
 
パン!パン!と爆音が響く。
 
えっと。何?
耳がジンジンしてるんですけど。
 
…よく見れば、それはパーティ用のクラッカーで。そして、例の新人4人組がフラダンスよろしく腰を振りながら踊っていた。
 
「おまえらッ!一番いいトコで出てくんなッ!!」
 
「えー、だって、くっついたんでしょ?」
 
「俺ら、頑張りましたよぅ。いろいろ森さんに吹き込んで、焦らせてみたり」
 
「そうそう、楓ちゃんにも、森さんの前では、長澤さんに気のあるフリしろってお願いしておいたし」

「ていうか長澤さんもチャッカリと、楓ちゃんから想いを寄せられてるってテイで、森さんにヤキモチ妬かせようとしてましたよね」
 
な、なるほど。
若者たちって本当に色恋沙汰が好きねえ。

ひたすら感心しまくる私の手を、長澤がギュッと掴んで離さない。

「悪い、俺らもう帰るわ。斉藤と婚約者さんに宜しく伝えといて。あ、この部屋1時間で借りてあるから。使いたかったら、どうぞ」
 
そのまま2人だけで抜け出そうとするので、慌てて雪ちゃんに婚約祝いを委ねる。

「ごめん、お祝いなの。渡しておいてくれる?」
「はーい」
 
『お幸せに~』の大合唱で私たちは見送られ、なぜか向かった先は…あの歩道橋の上。流れる車を眺めながら、長澤は真面目な顔をして言う。
 
 
「さあ、スタート地点まで戻ったぞ。
たぶん俺らはココから始まったんだ。
 
それまでは『ちょっと気になるコ』だったのが、
電話で呼び出されて、頼られて。 
その結果…あっけなく堕ちた。

恵麻は本当にズルイ。自分のこと分かってるか?
俺さぁ、お前になら何されても許せるんだよ。

正直、結構、傷ついた。
他の男との恋愛相談、平気でしてくるし。
俺のこと、全然男として意識してくれないし。
 
それでもイイんだ。恵麻といられるなら。

なあ、恵麻。もう一回、仕切り直しさせて。
俺に、どんな立場を与えてくれる?
俺、期待しちゃっていい…んぐ」
 

私は、夢中でキスをした。
 
 
 
 
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