12 / 14
素敵な言葉
しおりを挟む「恵麻ちゃん、こっち」
「な、なになに?」
腕をいきなり掴まれ、気付けば誰も使っていない個室へ。そして、なぜかギュウギュウと抱き締められていた。
「ああ、もう禁断症状出そうだった。恵麻ちゃん、恵麻、恵麻…」
た、助けて!意味ワカンナイんですけど。
「あの、長澤?林さんを放置して大丈夫なの?」
「へ?楓ちゃん??子供じゃあるまいし、大丈夫だろうよ。それより、『もう会わない』と言ってたのが電話してきたってコトは、アレだろ?もうアレなんだろ?」
アレアレうるさいな。
っていうか、アレって何よッ。
「いや、そんなことより、婚約パーティーは?長澤のじゃないの?」
「へ?なんで俺??」
そこからは『へ?』と『へ?』のラリーが続き。
ようやく判明したのは、婚約したのが新入社員の斉藤さんで、どうやら中学時代から付き合っていた彼女と授かり婚をするらしい。
「だって、てっきりそうだと思ったんだもん」
「あのさ、俺が誰と婚約するのかな?」
「は、林さんかなって」
「楓ちゃん?!だからアレは舎弟だってば。しかもあのコ、俺をダミーの想い人に仕立てて、本命は久保さんだからな」
「へ?久保さんって、大人で素敵な中堅社員の?」
「恋愛相談されまくりだぞ、俺」
「でも、ペアのパジャマを買ってた…よ?」
「斉藤の婚約祝いだし。たまたま俺と楓ちゃんがヒマだったから、買い出し担当になっただけだよ」
「だけど、もう会わないって言ったら平気そうで」
「そりゃあさ、俺、彼氏でも何でもないし。文句言える立場じゃないでしょ?それに全然平気じゃなかったよ。恵麻に会いたかった。恵麻の声を聞いて…恵麻に触れたかった。だからさ、もう俺に立場を与えてくれない?彼氏とか恋人とか、そういうハッキリとした立場。そしたら『会わない』って言われても、理由を訊けるし拒否だって出来る。今の俺、友達でもなんでも無いんだ。可哀想だろ?そう思うなら、きちんと立場を与えてくれよ」
…さあ、言わなくちゃ。
とびきり素敵な言葉を。
早く、早く。
「キャ~~ッ!!」「イェ~イ!!」
「ヒャッホウ!!」「うわ~い!!」
パン!パン!と爆音が響く。
えっと。何?
耳がジンジンしてるんですけど。
…よく見れば、それはパーティ用のクラッカーで。そして、例の新人4人組がフラダンスよろしく腰を振りながら踊っていた。
「おまえらッ!一番いいトコで出てくんなッ!!」
「えー、だって、くっついたんでしょ?」
「俺ら、頑張りましたよぅ。いろいろ森さんに吹き込んで、焦らせてみたり」
「そうそう、楓ちゃんにも、森さんの前では、長澤さんに気のあるフリしろってお願いしておいたし」
「ていうか長澤さんもチャッカリと、楓ちゃんから想いを寄せられてるってテイで、森さんにヤキモチ妬かせようとしてましたよね」
な、なるほど。
若者たちって本当に色恋沙汰が好きねえ。
ひたすら感心しまくる私の手を、長澤がギュッと掴んで離さない。
「悪い、俺らもう帰るわ。斉藤と婚約者さんに宜しく伝えといて。あ、この部屋1時間で借りてあるから。使いたかったら、どうぞ」
そのまま2人だけで抜け出そうとするので、慌てて雪ちゃんに婚約祝いを委ねる。
「ごめん、お祝いなの。渡しておいてくれる?」
「はーい」
『お幸せに~』の大合唱で私たちは見送られ、なぜか向かった先は…あの歩道橋の上。流れる車を眺めながら、長澤は真面目な顔をして言う。
「さあ、スタート地点まで戻ったぞ。
たぶん俺らはココから始まったんだ。
それまでは『ちょっと気になるコ』だったのが、
電話で呼び出されて、頼られて。
その結果…あっけなく堕ちた。
恵麻は本当にズルイ。自分のこと分かってるか?
俺さぁ、お前になら何されても許せるんだよ。
正直、結構、傷ついた。
他の男との恋愛相談、平気でしてくるし。
俺のこと、全然男として意識してくれないし。
それでもイイんだ。恵麻といられるなら。
なあ、恵麻。もう一回、仕切り直しさせて。
俺に、どんな立場を与えてくれる?
俺、期待しちゃっていい…んぐ」
私は、夢中でキスをした。
0
あなたにおすすめの小説
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
悪役令嬢と氷の騎士兄弟
飴爽かに
恋愛
この国には国民の人気を2分する騎士兄弟がいる。
彼らはその美しい容姿から氷の騎士兄弟と呼ばれていた。
クォーツ帝国。水晶の名にちなんだ綺麗な国で織り成される物語。
悪役令嬢ココ・レイルウェイズとして転生したが美しい物語を守るために彼らと助け合って導いていく。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる