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それから
しおりを挟む「そっか、分かったよ」
あのとき長澤は、呆気なくそう返事した。
『どうして?』とも『なぜ?』とも訊かずに、
ただ『分かった』とだけ。
相変わらず山辺さんは多忙で、1日1回は顔を合わせるよう頑張ってくれているみたいだけど、実現出来たのは最初の1カ月だけ。同棲3カ月目の今では、週に2日会えれば良い方だ。
それでも奥さんと別れてまで、一緒になろうとしてくれているのだから。
裏切れない。
…ううん、裏切っちゃいけない。
長澤と会わない決心をして2カ月が経ち、週末がなんだかとても寂しくなった。あまりにも寂しくて、女友だちに連絡してみた。ちょうど向こうは彼氏と別れたばかりで、すぐに会おうという話になり。翌日である土曜、こうして大きめの雑貨店で買い物をしている。
「恵麻!この美顔ローラー、効果あると思う?」
「うーん。無いと思う~」
「んじゃさ、この『のびのびチューブ』は?」
「効果あっても、佳菜子はスグに飽きるでしょ」
ゆるい。
私たちは大学時代からの友人なのだが、単独だとそうでもないのに、何故か2人集まるとものすごくユルユルな感じになってしまう。動きもそうだが会話も妙に間延びして、たぶん第三者が聞けばイライラすること間違い無しだろう。
それでも佳菜子は私にとって一番の友人で、
傍にいるとホッとするのだ。
「恵麻、あっちで冬用のルームウェア買いたい」
「はいはい、お供しますよ」
ふわモコのが可愛いよね~なんて言いながら、2人並んでその売場へと向かう。隣りにはパジャマも陳列されていて、仲良さげなカップルが楽しそうに選んでいる。
「恵麻、前方に敵がいる」
「敵?ああ、カップルのことね。無視しなよ。もしくは瞬間移動を習得するとか」
バカなことを言っていると、カップルがペアパジャマを手にしながら振り返った。
…最初、『よく似た人たちだな』と思って。
長澤と林さんにソックリなカップルだなって。
「あ、恵麻ちゃん」
その声を聞いて、ようやく本人たちだと認識する。
「長澤、ペアパジャマなんか着ちゃうんだ?」
「いや、うーんと…」
歯切れの悪い返事をする長澤に、重ねて言う。
「いいなあ、こんな可愛いコをモノにして。うん、これで私もホッとしたよ。もしかして長澤は一生独身なんじゃないかって、心配してたんだからね」
隣りに立っていた林さんが、
おずおずと長澤の腕を掴む。
…もう終わりだ。
とっくの昔に終わったつもりでいたけど、
どうやらトドメを刺されてしまったみたいだ。
心とは裏腹に、私は笑う。
だって、そうするしかなくて。
そして自分の気持ちを気づかれないよう、
まだまだ喋り続ける。
「いいなあ、休みの日に好きな人とラブラブ出来るの。私なんかさ、婚約したっていうのに、全然で。もう9日も会えてないんだよ。先週なんて誕生日だったのに、ブランドもののバッグとアクセサリーがテーブルの上に置かれてただけでメッセージカードすら無いんだもん。あ、もちろん電話はあったんだけど。それでも酷くない?」
この時点で、私の視界から林さんは消えていて。
一生懸命、長澤だけに向かって喋っていた。
そっか私、聞いて貰いたかったんだ。
そして優しい言葉を返して欲しかったんだ。
今まで、山辺さんと順調だったのは、
長澤が相談相手になってくれていたからで。
その長澤を失い、山辺さんとのことも
少しずつ歯車が狂い出して。
ああ、なんてダメ人間なんだろう。
誰かに愚痴を聞いて貰わないと、
自分の恋愛すら、ままならないなんて。
私は本当にダメダメだ…。
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