泣きながら恋をする

ももくり

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恋に気づく

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長澤と林さんが店を出て行き、
後に残された私はカップル2組に凝視されていた。

き、気のせいじゃないよね?
全員、私を舐めるように見てるうう。

そして、長い沈黙の末に漸く雪ちゃんが口を開く。
 
「森さんって、長澤さんをどう思ってます?」
「どうって?面白いし、一緒にいると楽しいと」
 
「気づいてますよね?長澤さんの気持ち」
「な、長澤の?」
 
「またまたあ、分かってるくせに。長澤さんは真剣に好きですよ、森さんのこと」
「…う?えええええっ?!!」
 
長澤が?私を??
 
でも、私に彼氏がいても平気そうだったし。山辺さんとのことなんて、逆に応援されちゃったほどだったよ。…そう言いたいけど、声にならない。まるで金魚のように口をパクパクと動かしていたら、4人の会話はあらぬ方向へと走り出す。
 
「このままじゃ長澤さんは半殺しですッ!」
「雪、それおかしい。『生殺し』じゃね?」
 
「うーん、晋吾、この場合『飼い殺し』では?」
「えっ?允、私は『生殺し』でいいと思う。さすがに『半殺し』は違うけどさ」
 
「うるさいよ里央。なんとなく伝わってるでしょ」
「雪、お前のせいで話が進まないんだが」
 
…ほんと、新しいタイプの漫才ですか?
 
少しだけ呆れていると、漸くシッカリ者の安藤君が話を進めてくれる。

「あの、すみません。部外者のクセに口を出して。だけど俺たち、長澤さんには幸せになって欲しくて。このままズルズルと森さんに会ってたって、見込みは無いんでしょう?だったら、早く離れてあげて欲しいんです」
 
思わず、コクリと喉を鳴らす。そんな私に気付かないフリで安藤君の話は尚も続く。
 
「さっきの楓ちゃん。主任が『奇跡の23才』と呼んでいるのは、とにかく今どき有り得ないほど純粋なんですよ。虚栄心とか駆け引きとかそんなものとは無縁で、いつでも真っ直ぐ過ぎるほど、真っ直ぐで。彼女となら長澤さんは絶対幸せになれるはずだから、そろそろハッキリしてあげてください」
 
私が、長澤を拒絶する?
そんなの考えたことも無かった。
 
週に一度、長澤と会う時間が何よりも楽しみで。
なのに、それを失ってしまうの?

「お願いします、森さん。だって貴女にはもう、婚約者がいるんでしょう?」
 
…何も答えない私を残して、そのまま4人は別テーブルへと移って行く。
 
それから暫くして、長澤が戻って来た。
 
「あれ?アイツらは?」
「うーん。お邪魔しましたって」
 
「ふうん。変な奴らだなあ」
「う、ぐ。長澤、さ、さっきモテてたじゃん」
 
動揺しているのが自分でも分かる。
 
何を言うのか考えも纏めていないのに、それでも見切り発進で喋り出してしまった。
 
「え、ああ。楓ちゃんのことか。いや、前に仕事でミスして困ってたところを助けたら、妙に感謝されちゃってさ。モテるというよりも、恩返し的な?なんか舎弟みたいな気持ちでいるんじゃないかな」
 
に、にぶっ。あの顔を見たのかな、この人。
もろ、恋する乙女だったのに。
 
って、私も鈍いんだよね。
でも本当にこの人、私のことを?
 
「ねえ、好き?」
「へ?え?な、なにが?!」
 
ああ、返事なんか要らないや。
私は、たぶん好きだ。
 
どうしよう。
気付いちゃダメだったのに。
 
この人が、長澤 いつきが、
とんでもなく好きだ。
 
たぶん、きっと誰よりも。
そう、山辺さんよりも…。
 
「う、あ、えっと、この日本酒、好き?もう一杯注文しようか?あ、そ、それとも、こっちの焼酎にしてみる??」
 
なんだ、酒のことかあ、そう言って、あどけなく笑う。その顔に、胸がギュウウッと締め付けられた。
 
ほんと神様は意地悪だな。
どうして、このタイミングで気づかせるんだろ。
  
ああ、そうなんだ。もう会っちゃいけない。
これ以上好きになっちゃ、いけないんだ。
 
 
 
 
──だから私は長澤に告げた。
 
『ごめん長澤、もうアナタとは会わない』と。
 
 
 
 
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