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2.私はカンピョウ巻
しおりを挟む須賀龍は私の1年後輩だ。しかし、この仕事では先輩に当たるので一応敬語を使うことにした。ふん、いかにもモテそうですこと。私みたいな地味女はきっとアナタ様からすれば、アレでしょう?
寿司屋のおまかせ10貫セットの中で、マグロやウニに紛れて堂々としているカンピョウ巻きみたいな存在ではないでしょうか?(※心の中でも敬語を使う律儀な希代さん)ええ、カッパ巻きですら無いですよね。色合いが地味なカンピョウ巻きだと自負しております。
それにつけてもスガリュウ!って名前まで格好良いですよね。その切れ長の目で見られただけで大抵の女性は落ちること間違い無しでしょう。でも、私は落ちませんけどね!
何故か心の中でだけ勝ち誇っている私に向けて、彼は予想外の話題を振ってくる。
「…以上。で、ここからは仕事とは別の話になるんだけど、いいかな?」
「はい、どうぞ」
2人だけのミーティングルーム。手元の資料をトントンと揃えながら彼は続ける。
「えっと、これはセクハラだと思わないで欲しいんだけど。まあ、ご存知のとおりウチの部署は男だけで11人もいて女は堤さんが来るまでゼロの状態だったんだ。一応、1年前には俺の同期で秋山未来ってのがいたんだけど、コイツが今のところ最長かな。残念なことに歴代の女性社員はことごとく我が部署の長である富樫副社長に惚れて退職するか、自ら部署異動を希望するという事態に陥っている。
だから、堤さんが今ココにいるのは、有能だということも勿論だけど、面接の際に富樫副社長に色目を使わなかったと言うか動揺しなかったことが合格とみなされたワケだ」
ここまでは私も知っている内容だったので、相槌を打ちつつも軽く反論してみた。
「私は大丈夫ですよ。…それに富樫副社長って昨年結婚されましたよね?前任の秋山さんと。私、既婚者なんて全然興味ありません。いいえ、それどころか男性自体に興味が無いんですよ」
ここで須賀さんの頬がピクリと動いた。
「う~、あの、悪いんだけどさ、堤さん。その考えをどうか仕事中は封印して貰えないだろうか?その、部署内の男共にはなるべくなら優しく接してやって欲しいんだよ」
「やさしく」
『なんのこっちゃ』と思いながらも、私は彼の説明に聞き入る。
「その…、ウチの部署の男共ってさ、既婚者が副社長を含めて2人だけで、それ以外は皆んな独身…いや、それどころか彼女もいない…っていうか、あの人たちに彼女がデキる気がしない」
「は?」
脳内で『なんのこっちゃ』が激しくリピートし続ける。しかし、目の前の人は真剣だ。
「1人1人を眺めてみると、見た目は結構悪くないだろ?なのに何故か出会いが無いというか、消極的というか、…はっきり言おう、難アリだ」
「デジタルコンテンツ部はもしや異世界なの?」
ああ、そうさ。
もう敬語なんて忘れたよッ。
「違うよバカ!異世界のワケ無いだろ。どいつもこいつも女に慣れてねえんだ。なんかよくよく考えたら、ウチの部署に選ばれるのは優秀な奴ばかりだからな。それは裏を返せば、遊びもせずにひたすら己の道を極めたオタクばかりだからでさ。しかもこの男だらけの職場でどうやって女と触れ合うんだよ?!」
「ああ、もう分かったから私にどうしろと?!」
コホンと咳払いをして彼は答えた。
「これは富樫副社長の持論だが、男なんて単純だから傍に女が1人いるだけでモチベーションが上がるんだと。年齢容姿関係無く、とにかく女という存在に発奮する生き物だから、堤さんもそのことを踏まえてだな、なるべく野郎共の前では笑顔で愛嬌を振りまいてくれ」
「…まるでオタサーの姫みたいですね、私」
なぜか『その例え、上手い!』と褒められ、更に彼はこう続けた。
「あの人たち、女という生き物に幻想を抱いてるんだよなあ。まあいつか裏切られる日が来るワケだけど、それまでは騙してやって欲しいと言うか、頑張ってウフフキャッキャしてくれ」
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