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3.キヨ、オタサーの姫になる
しおりを挟む一瞬だけ眉間に皺を寄せ、次は両方の黒目を上に向けながら私は静かに考えをまとめた。今までの私だったらきっと、『ふざけるな』と言ってキッパリ断っていただろう。だって仕事に関して性別の差は無いはずだし、女だからという理由だけで負担が増えるのは納得いかない。お茶出しにしても宴会でのお酌にしても、なぜ女だけが媚びへつらうことを強要されるのか?
ヘイ、ユー、私に分かり易く教えてくれよ!
…と食い下がったに違いないはずなのだが。
ところがどっこい、現在の私は傷ついていた。
せめてどこをどう改善して欲しいか伝えてくれれば良かったのに、そのチャンスすら与えてくれず、容易く松前さんに乗り換えた誠一郎。仕事であれほど都合よく私をコキ使っておいて、イケシャアシャアと『俺でも松前さんを選ぶよ』と言い放った同僚男性たち。
私の女の部分はもう必要ないのか?
私はこれから仕事で生きていくしかないのか?
そう思っていた矢先のオタサーの姫認定である。
「頑張ります、精一杯やらせてください!」
「…お、おう」
なんか、元気でた。よく考えるとおかしな状況だけど、ここはデジタルコンテンツ部という名の異世界…ついでに女としての自信を取り戻すためのリハビリ施設でもあると思っておこう。
…………
「♪キヨはまだ16だっからア~!」
「うおおおお、キヨちゃ~ん!!」
そんなワケで私は今、歌っている。
母直伝のセンチメンタルジャーニー(by松本伊代)を自分の名に替え、ノリノリで熱唱している。真面目を絵に描いたような女と言われ、こんなキャラじゃなかったはずなのに、何もかも吹っ切れてしまったのだ。だって、システム開発と同じくらい忙しい部署のはずなのに私の歓迎会の出席率100%だよ。しかもそのまま全員が、二次会のカラオケにも参加って嬉しいじゃないのッ。私がマイクを持ったら、歌本を放り投げて全員が手拍子してくれて、マラカスとタンバリンも振りまくりだなんてほんと最高かよッ。
「いやあ、こんな楽しそうなアイツらを久々に見たよ。堤さんは良い意味で裏切ってくれたな」
「そう言っていただくと嬉しいですッ」
富樫副社長にも絶賛され、私は確信した。デジタルコンテンツ部で上手くやっていけると。適材適所とはよく言うが、正にこの部署が私の適所だったに違いないと。
「堤さんって親しみ易くて落ち着くよ。化粧とかも濃く無いし服装も派手じゃないから」
「え?そうですか、あは、うふふ」
この人は…えっと、清水さん。そっか、そういう考えの男性もいるんだな。少しずつささくれた心が癒されていく気がして、私は改めてこの部署で頑張ろうと誓ったのだ。
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