10 / 52
10.ラーメン店での遭遇
しおりを挟む違う店に行きましょうよと言いたかったが、その前にスタスタと御門さんが中に入り『3人なんですけど』と怖そうな店長に申告したせいで、帰るに帰れなくなってしまった。スタスタ…クロノスタスタシスって知ってる?って、あは~、さっきカラオケでそのやり取りしたし~、これってデジャヴ~?
遠い目でひたすら現実逃避をしていたら、龍が脇腹を突いてくる。
「おい、多分まだ茶谷さんたち気付いてないぞ。引き返すんなら、今だ!!」
「んあ、そ、そうだよね!あのっ、御門さん!」
何も知らないイケメン隊長はテーブル席に荷物を置いて、無邪気に手を振りながら叫んだ。
「キヨちゃん、須賀くん、こっちだよ!」
見たら分かるっちゅうねん!!
怒りたいけど怒れない。だってクソキュートなその笑顔を見たら何もかも許してしまえるのだ。ほんと卑怯だよね、その顔。…って、見惚れている場合じゃなかった。御門さんのせいでカウンター席に座っていた誠一郎と松前さんがこちらに気付いてしまったらしく、立ったままの私と龍を凝視している。
こ、これは気まずい。
すっごくすっごく気まずい。
ん?って、あれ?どうしたの松前さん?
久々に会った彼女は、以前のキラキラした感じがすっかり色褪せ、下手をすれば10歳ほど老けて見える。目の下のクマは隠せないくらい濃いし、肌荒れのせいかファンデーションも浮いている。服装だって、以前はヒラヒラのスカートしか穿かなかったのに、今日は動き易そうなジーンズ姿だ。なるほど、だからラーメン店なのか。
昔の松前さんなら絶対、お洒落なお店にしか行かないと駄々を捏ねただろうが、今のボロボロな松前さんはむしろそういう店で恥をかきたくないからと自らラーメン店に行くことを希望しそうな感じだ。きっと仕事が忙し過ぎてメイクなんぞに時間を掛けていられないんだろうな。
ん?でも私、部署を異動しても仕事量は変わらないのに気持ち的には凄く余裕なんだけど。それは多分、仕事を押し付けられ『自分だけが辛い思いをしている』と被害者ぶっていたシステム開発での自分と、互いを思いやり『もっと頑張ってイイ仕事をしようね!』と励まし合うデジタルコンテンツ部での自分との差なのかもしれない。
うん、なんか今って結構幸せかも。だからかな、目の前で松前さんが誠一郎の腕に絡み始めたけど、むしろ微笑ましいと思えるほどで。
「そんなチンケな男で良ければ、くれてやる」
おっといけない、心の声が漏れてしまいそうだわ。って…、あ…、もしかして私、口に出したかも。そんなワケ無いよね?まさか…ええっ。聞こえて…ない…よね?いや、聞こえてる。あの顔は絶対に怒ってる。
「お客さん、とにかく座って貰えませんかねェ」
そんな時に、いかにも頑固一徹といった感じの店長が渋い声で私と龍に着席するよう促した。こんな時間でもそこそこ席が埋まっているのは繁華街に近いということと、やはりその美味さが理由だろう。『はい、すみません』と答え、御門さんの正面の席に座ると続けて龍も私の隣りへ腰を下ろす。水商売の関係なのか、少しオネエっぽい感じの男性客たちが真横のテーブルで私たちのことを楽しそうに話し始めた。
「ちょっと今の見たァ?なんかワケ有り~??」
「見たわよお、たぶんテーブル席の綺麗な子とカウンター席の小汚い子があの男を奪い合ったんじゃないのかしら?ちょっと火花飛んだわね」
「でもあんな超イケメン2人に囲まれてるのに、あんな普通の男と付き合ったりする~?」
「世の中には理屈じゃ割り切れないことも有るのよ、ビクトリアちゃん。毎日松茸を食べていたらたまにはシメジも欲しくなるワケよ。って、あらやだ、アソコのサイズの話じゃないから!ちょっと~、もう~、恥ずかしいい~」
0
あなたにおすすめの小説
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
幼馴染の勇者に「魔王を倒して帰ってきたら何でもしてあげる」と言った結果
景華
恋愛
平和な村で毎日を過ごす村娘ステラ。
ある日ステラの長年の想い人である幼馴染であるリードが勇者として選ばれ、聖女、女剣士、女魔術師と共に魔王討伐に向かうことになる。
「俺……ステラと離れたくない」
そんなリードに、ステラは思わずこう告げる。
「そうだ‼ リードが帰ってきたら、私がリードのお願い、一つだけなんでも叶えてあげる‼」
そんなとっさにステラから飛び出た約束を胸に、リードは村を旅立つ。
それから半年、毎日リードの無事を祈り続けるステラのもとに、リードの史上最速での魔王城攻略の知らせが届く。
勇者一行はこれからたくさんの祝勝パーティに参加した後、故郷に凱旋するというが、それと同時に、パーティメンバーである聖女と女剣士、そして女魔術師の話も耳にすることになる。
戦いの昂りを鎮める役割も担うという三人は、戦いの後全員が重婚の認められた勇者の嫁になるということを知ったステラは思いを諦めようとするが、突然現れたリードは彼女に『ステラの身体《約束のお願い》』を迫って来て──?
誰がどう見ても両片思いな二人がお願いをきっかけに結ばれるまで──。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました
鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。
素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。
とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。
「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる