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11.チンケな男
しおりを挟むシーン…。
だってこの店、BGMとか流れて無いし。オネエさんたちの会話、たぶん全員の耳に届いたと思うのね。それを証拠に、松前さんが全身をテーブル席の方に向けて座っているから。
ふと龍の顔を見ると『おらぁワクワクすっぞ』(※ドラゴンボールの孫悟空の声で再生してください)という顔をしていて。御門さんはメニュー越しにコッソリと誠一郎と松前さんの顔を盗み見ようと奮闘中。この状況で、店長が注文を取りに来た。
「チャーシュー麺3つ」
キメ顔で御門さんが勝手に答えたので、慌ててそれに抗議する私と龍。
「なに勝手に人の分まで頼んでるんですかッ」
「御門さん、『ラーメンつけ麺ぼくイケメン』って言ってくれないとダメだよ~」
「普通ので良かったんですよ、私。こんな時間にチャーシューたっぷり食べたら太るでしょ?」
「『ぼくイケメン』ってドヤ顔で言ってよ~」
ギャアギャア騒ぐ我らに向かってとうとう松前さんが口を開くのだ。
「ちょっと堤さん!アナタ失礼じゃないですか。人の彼氏を捕まえて『チンケな男』って…。アナタもそのチンケな男と付き合ってたクセに、しかもそのチンケな男に捨てられたクセに!!負け犬の遠吠えなんてみっともないですよ!!」
チンケチンケって言い過ぎ。
「松前さん、店に迷惑が掛かるから声のトーンをもっと落としましょうね。シーッ」
唇の前で人差し指を立てる私に向かって彼女は驚きの言葉を発するのだ。
「うるさい、ブスッ!!」
『チンケ』などと他人を貶める言葉を吐いておきながら、いざ自分が『ブス』と言われると傷つくだなんて、私も勝手な女だな。
「ごめんね、誠一郎。チンケとか言って。本当はそんなこと全然思ってないよ。ただ少しだけ怒ってるかな?だって1年以上も付き合ってたのに、私と別れる前に他の女に告白して、それでOK貰えたよって笑顔で報告してきたでしょ?普通、そんなこと彼女にしないよね?常識が無いっていうか人の気持ちが分からないっていうか。まあ、両方なんだろうけどさあ。
しかも、3人とも同じ部署にいて、私との仲は周囲に公表してあったのに新しい彼女とオフィスでイチャコラすればそりゃまあ、私が捨てられたって噂されるよね?せめて職場では周囲に悟られないようにしようとかいう配慮も出来なかったワケ?
あとさ~、先輩方から残業代もつかない仕事をガンガン押し付けられてたけど立場上、断れなかった私を庇おうともせず自分も一緒になって奴隷みたいにコキ使ってくれたよね?それで社内の花形の部署に異動して、給料UPして、イキイキと働き出した私に向かってこう言ったの。『自分が追い出したと思われてるから、元の部署に戻るよう異動願いを出せ』
って、誰が戻るかっつうの!!
あー、話してたら段々ムカムカしてきたわ。やっぱ前言撤回、チンケだわ、チンケ過ぎて涙が出そう。アンタのすべきことはね、誰も助け合おうとしない部署内の悪しき慣習を壊して、評価なんか気にせずに仕事のクオリティだけを高めようとする、そんな職場に改善することよ。それが出来ないなら一生チンケなままだからッ」
ゼエゼエと肩で息をする私を応援する人が登場。それは隣のテーブルのオネエ様方だった。
「ひゅうひゅう!威勢のいい女は大好物よ!!ちょっとッ、そこのアナタッ!!」
その指はビシッと松前さんを狙っている。
「な、なによッ」
「このコをブスって言ったけどアナタの家には鏡が無いのかしら?うふっ、どう見てもアナタの方が数十倍ブスよ。ねえ、ビクトリアちゃん」
ビクトリアというよりも熊男という感じのその人は満面の笑みで御門さんに投げキッスをして、コックリと頷く。
「みっともないオカマの癖して何よ偉そうに!」
「ああ、それ!そういうところがブスなのよ。顔にはね、その人格が滲み出てくるものなの。残念ながらアナタの顔は、人を見下していて『自分の方が偉い』という傲りがモロ出ているわ。でもね、そういうタイプって大抵、自己評価が高いだけで周囲の評判は芳しく無いと決まってるから。きっとアナタ、周囲から嫌われてると思う。そんな女と付き合っている男も当然、周囲からバカにされているんじゃないかしらねえ。ほんと見る目の無い、チンケな男だわあ…」
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