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予想外の展開
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その翌朝。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
ひとんちでそりゃもう優雅に脚を組んでモーニングコーヒーを飲んでいる男が1人。その名を廣瀬真という。
「なんか、地べた生活って疲れるよな」
「お、慣れてきたら文句を言い始めましたね」
我が家にはソファが無く、基本ローテーブルに座布団生活である。だから座布団に座って脚を組むとなるとかなり腹筋が鍛えられるはずというか、何やってんの?という感じである。
「しかし、黙っていてもご飯が出されるのは実に有り難いものだ」
「そうでしょう、そうでしょう」
「あのさ、俺、思ったんだけど…一緒に住まないか?」
「ええーっ」
自分でも驚くほど大きな声が出た。
「期間限定でも構わないからさ、この調子でいたら俺、きっと栄養失調で死ぬ気がする」
「まあ、それは確かに…って、うぁ」
ボロボロボロ…。
ああっ、また?!
会話に集中出来ないのは、廣瀬さんがアボカドとツナのクロワッサンサンドを食べこぼしているせいだ。これに関しては既に注意済みだが、『食べ難いもんを出しやがって』と反論されている。
「俺、自炊スキルは有るんだけどその時間が無いんだよ。後はさ、ほら…」
「な、なんですか?」
急に口籠ったかと思うと、廣瀬さんは真面目な顔でこう続けた。
「フレンチレストランで千脇さんが言っただろう?俺は結婚に向かないように見えるって。神経質そうで、娯楽番組を観ることを許さず、レジの会計では暗算してお金を用意させそうだって。あれさ、殆ど当たってる。唯一、シーツだけは毎日じゃなくて週二で洗ってるくらいで、それ以外は正解だったんだよ」
「わお!職業柄、人を分析する能力が鍛えられてしまったんだわ!さすが私!!」
あまりにもドンヨリした雰囲気だったので、ワザと明るく振る舞ってみたのに。廣瀬さんの悩みは深刻だったようだ。
「いや、そういうのは今いらないから。とにかく俺、あの言葉が結構…いや、とんでもなくショックでさ。大学に入ってから31歳の今までかれこれ13年も1人で生活しているから、大から小まで事細かなマイルールをそりゃもう半端なく作っているんだよ。で、千脇さんに指摘されてハッとした。俺、たぶん他人と一緒に暮らせないかもって」
「はあ、そうでしたか」
心を込めて返事をしたつもりだったが、どうしても我慢出来ずにテーブル上のパンくずを掃除してしまったのが気に入らなかったらしく、廣瀬さんは台拭きを握った私の右手をガシッと掴んで低い声で唸るように言った。
「おいこら、真面目に人の話を聞け。俺は結婚したいんだよ!美人な奥さんと可愛い子供に囲まれて幸せイッパイの家族だと周囲から羨ましがられたいんだよ!」
「だ、だからって、どうして私が一緒に住まなければいけないんですかッ」
手首を掴んでいたその手が移動し、今度は私の手の甲をさすさすと擦り始める。
「まずは他人との同居で、自分の状態がどの程度かを確認したい。そして、改善点を提案して欲しいし、出来れば食事も朝晩作ってくれると有り難い。だってほら、社員教育を生業にしている千脇さんなら、男としての俺の教育もお手の物じゃないか。勿論、タダでとは言わないし、それなりの謝礼を出すつもりだ。どうせキミのようなタイプは尽くし型だろうから、自分1人だけだと食事作るのが面倒で食生活がガタガタになってしまうはずだ。…だから俺にご飯を作ってくれ!取り敢えずは1カ月だけ試してみてはくれないか?」
「1カ月…だけなら…まあ、いいですよ」
なんだかもう勢いに負けたと言うか、朝のこの忙しい時間にグダグダ言われて面倒になってしまったのである。
「本当に?!やったあ!!」
「いたいいたい、もう手を離してくださいってばッ」
ああ、私って押しに弱いなあ…とかなんとか呆れつつも、その数日後、
スーツケースをゴロゴロ引きながら
廣瀬さん宅に向かう私の姿が有った。
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