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千脇さんも結構、面倒臭いよ
しおりを挟む「マ、ママママリちゃん?」
「なあに?」
爽やかな水曜日の朝、心機一転ガンバルゾー!とか思ってエレベーターに乗り込んだらたまたま同僚のマリちゃんも一緒で、他部署の人も大勢いるし、あまりベラベラ喋るのもねえ…とか思って、無言のまま笑顔と笑顔で挨拶したら、サラリとマリちゃんの長い黒髪が肩を滑って首筋が丸見えになって、そしたら
「キスマークがついていた…と」
「そうですよ、廣瀬さん」
同居2日目だと言うのに帰宅早々、下ネタで盛り上がっているが、でもだって会社では言えないし、でも誰かには言いたいし、というかマリちゃんが私をマウンティングしてくるんですっ。
「あー、いるねえ、恋愛に不慣れな女が初めて貫通したりすると、自分が特別な存在だと思い込むアレな?」
「うー、言いたくないけど、アレですよ」
私は2年もの間、前田との関係を公表出来なかったので、ずっと彼氏はいなかったということにしている。そうなると宮丸とラブラブしているマリちゃんは、何故か私に先輩風を吹かせ、恋愛についてアドバイスしてくださるのだ。…それも、執拗に。
廣瀬さんの指摘どおり、マリちゃんにとって宮丸は人生初の彼氏だったらしく、しかも私のことも勝手にずっと彼氏がいないという謎認定をしていて、だからこそ赤裸々に性生活について語ろうとしてくる。あの真面目で潔癖そうに見えたマリちゃんが、セックスごときであれほど崩壊するとは、誰が予想出来たであろうか?いま思えばキスマークだって絶対にワザとつけて来て、私に発見させようとしたに違いない。
「…ん?千脇さんは前田くんの前にもいたのか?そういうことをする彼氏が」
「一般公開できる彼氏がいましたよ!バラ色のキャンパスライフを送ってましたからね!」
「じゃあ、それを言えばいいじゃないか」
「くうう、言ったに決まってるじゃないですか。でも、『またまた見栄を張っちゃって~』的な嘲笑っつうか、鼻で笑われたんですけどッ。なんかマリちゃんって思い込みが激しいから、自分が『こう!』と思ったらそれ以外は認めないというか。とにかく『千脇ちゃんは人生で一度も彼氏が出来たことの無い不幸な女だから、世界一愛され上手なこのワタクシの成功例を教えてあげましょう』という考えのようです」
「うーん、はっちゃけちゃったんだろうなあ。でも安心しろ、そのテのカップルはすぐ破局するから」
「でも、よく残業を手伝って貰っているんですけど、最近ではその残業タイムにも仕事そっちのけで語り出すんです!あれはもう手伝いじゃなくて邪魔です!」
私の作った晩御飯を食べるため自宅に仕事を持ち帰っている廣瀬さんは、ノートパソコンのエンターキーをポンと軽やかに押してから漸く私に顔を向けた。うっ、自宅で仕事する時だけメガネかけるなんて卑怯だぞ。ああ、メガネ男子最強!
「女同士って面倒臭いな」
「私自身は面倒臭くないですよ。女を一纏めにしないでください」
「千脇さんも結構、面倒臭いよ」
「えっ?!わ、私が??」
「あー、気付いてないんだ?前田くんとの交際を例に挙げるとね、ご飯を作ってくれて、セックスさせてくれて、周囲にはその関係を内緒にしてくれて、しかも本命と婚約したら後腐れなく別れてくれるという面倒じゃない女の鑑みたいな存在だと自負しているんだろうけどね」
「そ、そうですよ、とっても便利な女じゃないですか」
廣瀬さんは呆れたように肩をすくめて私に言った。
「最後までそれを自分1人の心の中に秘めて、誰にも言わなかったらそう思うけどさ、結局、俺に暴露してるだろ?前田くんにとって面倒じゃないだけで、俺にとっては面倒だよ」
「…ああ」
「そんな部下のドロドロした関係を聞いちゃったら、気を遣わないワケにいかないだろ?そして千脇さんもそれを期待して俺に話したんだよね?まあ、聞いちゃったもんは仕方ないし、極力、前田くんと千脇さんを2人で出張に行かせないとか配慮はするけどさ。あー、面倒くさ」
「そう、そうですね。本当に申し訳ないです」
「分かってくれたのなら、いい。本当は全然面倒じゃないから気にするな」
「気にしますよお」
「嘘吐け」
「嘘じゃないです」
不思議と廣瀬さんには何でも話せた。年上だからか、それともその性格だからか。とにかくこの人は打てば響くようにどんなことでも即対応してくれるので、話し易いのだ。
「そうか!佐久間さんの件、名案が有るぞ」
「はい、マリちゃんの件をどうやって解決してくださるのですか?」
廣瀬さんはドヤ顔でこう答えた。
「俺と千脇さんが交際してるってことにすればいいんだよ。んで、既に同棲もしていると広めるんだ」
は、はあああっ?!
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