好きですけど、それが何か?

ももくり

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激コワな女

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 マリちゃん、なぜ私の顔をチラ見するのだ。
 堂々と正面から掛かって来いや、おらあ!!
 
 ──と、心の中でだけ威勢の良い私。

「千脇ちゃ…ん?本当に??」
「んー、ほんとほんと」

「えっ、でも、今までそんなこと一言も言わなかったじゃない」
「ごめんごめん」

 嘘を見破られまいとなるべく最小限の言葉でやり過ごそうとしているのだが、ここで予想外の人物が登場した。同じ総務部でも財務経理課に所属している新人の太田朱里…そう、自分が前田の彼女だと公言して憚らなかった猫かぶり女子である。

「嘘でしょう?!廣瀬主任、私は信じませんからッ」
「信じる信じないは太田さんの勝手だけどね、真実は曲げられないから。既に一緒に住んでいるんだよ、俺達」

 ん?なんかこの話の流れだとまるで…そう、まるで太田さんが廣瀬さんのことを好きみたいじゃない?でも、だって、じゃあ…。

「太田さんって、前田と付き合ってるんじゃないの?」

 私からの質問に太田さんはツンと澄ました表情で答える。

「は?!そんなのとっくの昔にこっちから見切ってやりましたよッ」
「え…でも以前、ことある毎に『前田さんは私のカレ』とか言ってたよね?」

「そんなの牽制に決まってるでしょう?信じないでくださいよ~。悔しいけど前田さんったら私の誘いを毎回、断りまくったんです。それが逆に私の狩猟本能を煽ったと言うか、自分が一歩だけでもリードしたいという意気込みから出てしまった真っ赤な嘘ですよォ」
「と、いうことは、前田の婚約者は太田さんじゃないんだ?」

 じゃあ、消去法でいくと村瀬さんということになるのかな?もしかして私の知らない第三者の女性ということも有り得るけど…いや、そうじゃない。だって平日の夜はほぼ私と会ってたし、婚約するほど親密でしかもよく前田が会っていた女性と言えば村瀬さんくらいしか思いつかない。

 >えええっ?!ま、前田さんが婚約したんですか?!

 >ちょっと千脇ちゃん、それ本当なの?!

 まったくもう、人が悩んでるというのに太田さんもマリちゃんも煩いなあ。ここでなぜか廣瀬さんが代わりに返答してくださった。

「どうやら本当みたいだよ。前田くん本人が迫田さんに『婚約しました』と報告したみたいだから。結婚式は1年後くらいと言ってたらしいし、まあ、その間に何がどうなるか分からないけどね」
「廣瀬さん、そんな縁起の悪いことを言っちゃダメですよ」

 マリちゃんに窘められた廣瀬さんは、私にだけアイコンタクトで『帰り支度をしろ』と伝えてくる。もしやこれは質問攻めに遭うことから逃れるチャンスかもしれないと思った私は、驚きの素早さでソレを整え、マリちゃんと太田さんに向かって笑顔で別れの挨拶をした。

「じゃあ、お先に失礼します!」
「佐久間さん、太田さん、もうすぐここへ宮丸くんと一緒に長谷課長が来るから、そしたら戸締りをお願いして貰えないかな?じゃあ、俺も先に帰るよ!」

 グッジョブ、廣瀬さん。
 グッジョブ、私。
 
 とにかく我らはこの場を去りまーす!!

 
 
 『ところであんな時間に太田さんは何をしていたんでしょうね?』という疑問を口にしたところ、廣瀬さんが呆れたようにこう答えた。

「…へ?千脇さんは知らなかったのか」
「え?何をですか?」

「彼女、俺のこと狙っててさ。ホワイトボードに書いてある行動予定表を見て、帰社時刻になると偶然を装って待ち伏せしてたんだよ」
「げーっ、激コワじゃないですか。待たれても困りますよねえ?」

「ああ、本当に困っていた。前田くんのことを勝手に自分のモノ宣言していることから考えても、分かるだろう?彼女はとにかく男を踏み台にして、もっといい男、更にもっといい男…と乗り換えていく女なんだよ。最初は忘れ物を取りに戻ったフリして偶然俺に会い、食事に誘うというパターンだったんだけどさ、いくらなんでも分かるっつうの。週に4回も忘れ物する?…って、いや、千脇さんなら有り得そうだけど、でも、そうじゃなくて、そんな取りに戻るほどの大切なものを、なんでそうそう忘れていっちゃうのかって話」
「そんなの私に言われても、知りませんよ。って…あッ、もしかして廣瀬さん」

 なに?と問い返す彼に、私は敢えてその疑問をぶつける。

「もしかして今回、私の彼氏役をしてくれると言い出したのは…太田さんみたいなあざとい女性社員を避けるためだったりしますか?」

 見た目だけは本当に素晴らしい廣瀬さんは、一瞬だけニヤリと笑って『バレたか』と即答した。

 
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