好きですけど、それが何か?

ももくり

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トントン拍子で怖い

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「ほら、フリータイムをくれてやるから自由に喋っていいぞ」
「何なんですか、その上から目線」

 抗議する私を見ようともしないで廣瀬さんは村瀬さんの隣りに腰を下ろした。そのタイミングで前田が口を開く。

「千脇、俺は2時間しかここにいられない。だから要望だけ伝えてもいいか?」
「えっ?ああ、うん、どうぞ」

「電話に出てくれ、メールもSNSも無視しないでくれ」
「うん、分かった」

「それとどんな経緯でソレを開始したのかは知らないが、一分一秒でも早く廣瀬さんとの同居を解消して欲しい。元いたマンションを既に解約しているのであれば、俺のマンションに越して来てもいいから。とにかく他の男性と2人きりで暮らすのは止めて欲しい」
「えっ、うん、まだ自分のマンションは残してあるから明日までには戻るね」

 何もかもがトントン拍子で怖いくらいだ。もしかしてこれって夢?やだ、それなら早く覚めて欲しいんですけど。そんなことを考えていると、テーブルに置いてある薔薇の花束をいかにも邪魔そうに押し退けながら廣瀬さんが会話に割り込んでくる。

「あのさ、俺と千脇さんが付き合ってるって話、社内中に広がってると思うんだけど。これがいきなり前田くんと婚約したなんてことになると、俺、すごく可哀想な男に映らないか?」
「でもほら、人の噂も四十九日って言いますし」

「おいこら千脇、七十五日だっつうの、勝手に極楽浄土に送ろうとすんな!」
「ひゃあ、廣瀬さん、怖いい」

 どうやら夢ではないらしいが、いろいろと面倒な事態になってしまったようだ。同棲までしていた私が前田との交際をオープンにしたりすれば、周囲の人々は廣瀬さんがフラれたと思うだろう。別に私はそれでも構わないけれど、このプライドの高いミスター完璧パーフェクトがそんな屈辱的な役割を引き受けるはずがない。

 ああ、いったいどうすれば?
 前田にはもう時間が無いというのに…。

「えっと、じゃあ廣瀬さんの新恋人になります」

 軽く右手を上げながら村瀬さんがそう言ったことに寄り、ここにいる全員がその手に視線を向ける。

「そんな…、あの、村瀬さんにそんなことをお願いするのは心苦しいと言うか…」
「いいね!そうしようよ」

 私が辞退の方向で進めようとしているのに、廣瀬さんが食い気味で賛成し出す。

「遠慮しないで、私いま彼氏とかいないし。好きな男はいるんだけど、そっちは可能性ゼロだから」
「そう…なんですか?」

「うん、職場の同僚なんだけどね、全然オンナとして見られてないみたいで。廣瀬さんと付き合ってるってことにして、気でも引ければ万々歳よ」
「はあ、そういうもんですか…」

 村瀬さん、メチャクチャ美人なのに。こんな容姿だったら、人生楽勝だと勝手に決めつけていたけど意外と苦労しているらしい。

「ね、じゃあ決定!私と廣瀬さんが電撃的に付き合い始めて、破局した千脇さんを前田が慰めたという設定でいいかしら?」
「え、でも俺が婚約したことを宮丸と佐久間が知ってるんですけど。廣瀬さんと千脇の破局の時期はいつ頃にしますか?」

 不安そうな前田に村瀬さんはハキハキ返事する。

「廣瀬さんと千脇さんは交際後すぐに破局していたけど、周囲の人達に気を遣わせたくなくて隠していたことにするの。で、ずっと千脇さんのことを好きだった前田くんが押せ押せで婚約まで持っていったと。これで廣瀬さんの名誉は保たれるし、千脇さんも堂々と前田くんと付き合えるでしょ?」
「うーん、じゃあ、その設定でいくか…。いいかな?千脇さん、前田くん」

「でもあの、すぐに別れておいて、マリちゃ…佐久間さんにあれほど私のことを褒め千切ったということになると、廣瀬さんってかなりヤバイ人だと思われるかもしれませんよ」
「まあ別に、自分が捨てた千脇さんが哀れだから周囲の好奇の目線を逸らす為に交際順調なフリをしておいた…と説明するから大丈夫だよ」

 この人は本当に悪知恵が働くよなあ。

 そんなことを感心していると、細かな設定も次々決まって前田の言うタイムリミットの頃には解散の運びとなる。

「じゃあね、前ダ──ッ?!」
「千脇、早くソレに乗って!」

 前田によってタクシーの後部座席へと押し込まれた私は、いつの間にかあの懐かしい高級ホテルのフレンチレストランに辿り着いていた。

 
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