恋、しちゃおうかな

ももくり

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人は変われる

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『ごめん、もう少しやっておきたいから美玲は先に帰ってくれよ』
 
 そう言われたから、山川さんと飲んで愚痴ることを決めたのに。ドアを開けてすぐ傍にあるカウンターの奥で、鈴木さんは髪の長い女性と楽し気に話していて。
 
 なんで嘘を吐く必要があったのかな?
 それとも、意外に早く仕事が終わったとか?
 
 いやいや、そんなことよりオンナと一緒だし。

「あれは…秘書課の杉崎さんじゃないかな」 
「う、え?ああッ??」
 
 振り返ると、そこには作本さんがいた。『なぜ、どうして』と私が問うよりも先に彼は言う。
 
「あのさあ、鈴木に見つかってイイの?見つからない方がイイのなら、早く出よう」
「で、出ますっ」
 
 なぜかそのまま深夜営業のドーナツショップに入り、砂糖だらけのドーナツを頬張っていたりして。
 
「山川のヤツ、どうやら俺と美玲ちゃんをくっつけようとしてるっぽい。『深夜に女ひとりで飲みに行かせるのは危険』とかなんとか騒ぎ出してさ、俺に後を追えってウルサイから仕方なく来ちゃったんだ。なんか、ゴメン」
 
 >ウルサイから仕方なく
 
 あまりにも正直すぎますよ、作本さん。そこは適当に誤魔化してですね…って、いえ、文句は言いませんけど。
 
「あのさあ、別に俺、美玲ちゃんを狙ってるワケじゃないんだ。でも、敢えて言わせて貰うぞ。鈴木と付き合うの、もう止めたら?ここ最近はおとなしかったみたいだけど、それって大っぴらにやってた女遊びを隠れてするようになっただけなんじゃないかな。人の性根なんてそうそう変わるもんじゃないし、今に絶対、泣くことになる」
「うー、あー」
 
 耳に指を突っ込み、奇声を発する私。もちろん深夜なので、ボリューム小さめだ。

「な、何してんの?」
「雑音を、耳に入れないようにしているのです」
 
 ごめんなさい、作本さん。私のためを思って言ってくれているのでしょうが、それでも私は、彼を信じることに決めたのです。自分の両親のことを『いいなあ』と言っていた、あのときの目を信じていたいから。
 
「その杉崎さんとやらと会っていたのも、何か事情が有ったのでしょう。『人はそうそう変わらない』なんて、そんな悲しいことを言わないでください。
 
 作本さん、人は変われるんですよ。
 少なくとも、鈴木さんは変わったんです。
 
 私はそれを信じますッ」
 
 
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