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香奈、連れ込まれる
しおりを挟む…結局、大介さんは私と別れることを了承し、奈々さんの方も離婚の方向でコーチと話し合う覚悟をしたらしい。彼女いわく、これ以上人生を無駄にすることがバカバカしく思えてきたのだと。
「両親の手前、結婚生活を続けて来たんだけど。いい加減、自分のために生きようかなと思ってしまったの。だって、あのバカ男に騙された時って、私まだ高校生の小娘だったのよ?!それが10年経過して大人になったことで目が覚めてしまったというか。それなのに必死で自分を騙して、我慢し続けてた。もうここらでアイツを捨てても許されると思ったの」
はァ…とかなんとか相槌を打つ我らを放置して、2人は軽やかに去っていく。
「…あ、伝票置いていっちゃいました」
「ん、いいよ、俺が全部払うから」
って重い!人の肩にもたれ掛からないでッ。
「怖いほどサクサク話が進んじゃいましたね」
「あー、うん。なんか俺ら、物語の中心人物のはずなのに置いてけぼりにされた感、満載だな」
「ですねー」
「さて…と、じゃあ次なるステージへ突入だ。今晩は帰らないと自宅に電話しておきなさい」
「へ?どこに行くんですか?」
「キャッ、俺にそんなこと言わせるなよ」
本気の本気で分からない。
「多分もうウチの両親たち、寝てるはずですよ。2時間前に『友人たちと飲みに行く』と電話しておいたので、そのまま友人の家に泊まると思ってるんじゃないかな?私、こう見えてすごく信頼されているので」
「へええ、そうなんだ」
…というか姉や妹と比べると男ッ気が無いので心配されていないだけなのだが。例え朝帰りしても女友だちと一緒だと思われているようだし。
「じゃあ行こうか」
「え?ああ、はい」
会計を済ませ、ゆっくり店を出る。少し歩くといきなり内藤さんに手首を掴まれて、驚くほど自然にそこへと連れ込まれた。
「香奈ちゃんは初めてなんだから高級ホテルのスウイートルームでシャンパン飲みながら薔薇の花びらを浮かべたお風呂に入りお姫様抱っこでキングサイズのベッドまで運んでそりゃもうラグジュアリーな夜を演出したいと思ったけどだってもうこんな時間だろ?チェックインするのは厳しいしじゃあ改めて別の日にとも考えたけどでもやっぱりこういうのは勢いが大切って言うかいやもう俺自身が我慢できないんだよ」
「ほえ~、これが噂のラブホテルですか…」
息継ぎを忘れた内藤さんは案の定、ゼエゼエしている。
「…お、おえ、お、ゴホッ、俺、香奈ちゃんと会ってない3カ月の間、禁欲生活を守ってたよ。だからさ、ご褒美、くれるよね?」
「いや、それは内藤さんが勝手に我慢した…」
だけとはとても言えない雰囲気だ。ルームキーを手にした内藤さんはウキウキと私の手を引っ張り、先へ先へと進んで行く。
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