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ごたいめ~ん

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 ぶぉおおん、ぶぉおおん
 
 遠くで開戦を告げるホラ貝の音が聞こえ、
 単身で敵陣に乗り込む屈強な武士が現れた。

「香奈!ちょっと早かったかな?」
「いえ、あの、実は、そそそ、祖父も来てしまったんです。銀行の、頭取とかしている関係で、身内になる人間は厳しく審査するとかなんとか言い出して、…その、内藤さん及び内藤工務店の調査報告書を、家族全員に配布したりして。それどころかクソ真面目なウチの父に、女遊びが激しかったという内藤さんの過去まで暴露してくれたお陰で、ただいま我が家は最悪の空気になってますッ。本当にごめんなさい!!」
 
 …ん?
 
 よく考えてみると『身内になる人間』って、
 何てことを言ってしまったんだ私?!
 
 あれほど愛子ちゃんから、挨拶イコール結婚とは限らないよと注意を受けたのに、これじゃあまるで『私達って結婚するよね?』と言わんばかりではないか。

 後悔の念に襲われながらもペコペコ頭を下げる私に向かって、内藤さんは予想外の答えを放つ。
 
「香奈がそんなに息継ぎするのって珍しいな。ああそっか、言葉を選びながら話すとそうなるのか…。ふふ、大丈夫だよ。全部事実だからさ、隠さず有りのままの姿を見て貰うつもりなんだ。満場一致でこの交際を賛成して貰えるとは思っていないし、ダメと言われても何度だって通うよ」
「う…、頼もしい、涙が出るほど頼もしい」
 
 そんなやり取りをしていると、待ちきれなくなったのか母がやって来た。
 
「ようこそいらっしゃいました。玄関で話し込んでいないで上がってくださいな」
「はいっ、失礼致します」
 
 父の予想通り、内藤さんはスーツで決めていて。髪も珍しくきちんと撫でつけられ、その手には有名な和菓子店の手提げ袋が握られていた。カチャリとドアを開けた途端、無遠慮なまでの視線が内藤さんに集中し。そしてゆっくりと父が立ち上がり、それに追従するかの如く姉と妹も立ち上がる。祖父だけがそのままの状態で、手を上下に扇ぐような仕草で座れと合図する。
 
「初めまして、内藤侑季と申します。これ、つまらないものですがどうぞ召し上がってください。香奈さんからお父さんが甘党だと伺ったのでお口に合うと良いですが」
「キ、キミにお父さんと呼ばれる筋合いは無い!」
「そうよそうよ!言ってやってお父さんッ」
 
 ええ…っ。
 そんな子供みたいな態度を取っちゃう?
 
 
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