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泣くのは卑怯
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「そ、それは謎だな」
「えっ、ああ、うん」
相談相手を間違えていることは重々承知の上だ。
しかし今、この状況では他に話題が無くて。遠い目をしながら社食のパッサパサなサラダを牛のように咀嚼していると、どこからか女子がボウフラのように湧いてきた。
「あの、テレビ、見ましたよ。藤井さんと高梨さんって付き合ってるんですね」
「あはは。実は付き合ってないんだよ。その場のノリであんな風に取り上げられてさ~。あのさ、俺もコイツも本当はフリーだから。皆んなにもそう伝えておいてくれるかな?」
話し掛けて来た女子は嬉しそうに目を輝かせ、コクコクと頷いて去って行く。
…そう、例の番組が数日前に放送されてしまい。それを観た社内の人々が『2人は結婚間近だ』と恐ろしいスピードで噂を広めまくり。何もかも誤りだと訂正するためわざわざ昼休憩にこうして2人揃って社食のど真ん中で食事しているワケだ。
身から出た錆と言うか、何もかも自分が悪いのだけれども。というか、フッた男に恋愛相談する私って。だって、藤井の方から誘導してくるのである。
>なに暗い顔をしてるんだよ。
>またあの男のことで悩んでるんだろ?
>ほら、遠慮しないで俺に愚痴ってみな。
はいはーい!と即答する私も大概だと思うが。とにかく、何もかも洗いざらい話した。貴臣に電話もメールもSNSも拒否されたこと、それから突然の変身というか、美化についても。
『そこから導き出される答えは何か?』と自分の方から藤井に問い掛けておきながら、ついウッカリ自分で答えてしまう。
「やっと邪魔者が消えて、心機一転、新しい恋を探す気なんだろうなあ」
「う、ああっ、おい!スミレ、頼むッ!!会社でだけは耐えてくれッ」
何を騒いでいるのかと思えば、気づけば下マブタに涙が溜まっていて、今にも零れ落ちそうになっていた。それを必死で堪えていると、藤井が安堵の表情で言う。
「た、たかが失恋如きで大のオトナが泣くな!俺を見ろ!自分をフッた女が、他の男のことで泣いているのを見せられているんだぞ。これって、なかなかの哀れっぷりじゃないか?子供じゃあるまいし、とにかく会社では泣くな」
だけど、子供は泣くほどの恋愛をしないでしょ?絶対に子供よりもオトナの方が辛くて哀しい出来事に遭う率が高いのに、どうしてオトナは泣いちゃダメなの?
…ということをボソボソ小声で抗議すると、藤井は優しく笑って答えるのだ。
「お前だけじゃない。オトナってのは誰もが皆んな、どんなに辛くてもどんなに哀しくても、それを顔に出さずに平気なフリをしているんだ。平気なフリってのはな、結構大変なんだぞ。
だからスミレみたいに泣いてる人間を見つけると、ツラれてしまうかもしれないじゃないか。
さあ、その人たちのためにも耐えろ。
皆んなが頑張ってるんだ!
自分だけ泣くのは卑怯だと思え!」
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