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その17
しおりを挟む※<補足>唐突に登場する朱里と廣瀬さんは、『ずっとこの恋が続きますように』というお話でメインとなったカップルだったりします。ちなみに、本作の『その5』で湊が言っていた「激務な上司」と「昔から俺のことを好きだと騒いでた女」はこの2人のことなのです。
…………
「長年、片想いをしていた祥から告白を受けたというのに、何故か心がちっとも動かなかったの。これってどうしてだと思う?」
そんなワケでその数時間後。
私は都内某所にて朱里ちゃんと会っていた。
「七海さんはきっと戸惑っ…「恋はナマモノだからな。長く放置すると腐るぞ」」
「そうかな?取り敢えず『付き合う』とは返事してないし、有耶無耶にしてウチを出て来たんだけど」
「えっ、じゃあ湊は…「すぐ旬じゃ無くなってしまうんだ」」
「湊はそのままソファで眠っちゃったから、起きたら勝手に帰ると思う」
「ということは湊と付き合わ…「まあとにかく考え直すいい機会だな」」
「うーん、そこんとこは改めて仕切り直すつもりなんだけど」
って、朱里ちゃんと話しているはずなのに、その背後にいる廣瀬さんがウザイんですけど!
まあ、確かにココは廣瀬さんの高級マンションで、熱い金曜の夜を過ごした翌朝…すなわちイチャイチャタイムに乱入した私が悪いんだけど。それでも一旦は受け入れたのであれば、最後まで見守ろうよ!…などと言えるはずも無く、私はひたすら薄笑いを顔に貼り付けてみる。
シーン。
一瞬の沈黙。──それを好機だと思ったらしい廣瀬さんが、この場の主導権を握るべく覇王の様に立ち上がった。
「俺は前々から感じていたんだ。あのさ、友情というのは寿命が有るじゃないか?よく考えてみろ、子供の頃からなんだかんだ言って定期的に仲の良い友人は入れ替わっていく。それは進級や進学といった本人がどうにも出来ない事情だったり、年齢と共に趣味嗜好が変化することによってそれを一緒に楽しめる相手も移り変わるという理由だったりするんだが」
ここで朱里ちゃんが『ごめんね、廣瀬さんっていつもこんな感じで突然スイッチが入ると誰もそれを止められないの』と詫びてくる。睡眠不足のせいでナチュラルハイになっていた私は手をヒラヒラさせることで“気にしないで”という意志表示をしてみた。
そして、まだまだ廣瀬さんの熱いトークは続く。
「それと一緒だ。恋心にも寿命が有るんだよ。今回の例だと、義弟を好きになってからどれだけ年月が経っていると思うんだ?早々に両想いと判明していたならまだしも、片想いのままで15年以上だぞ。子供の頃に好きだった男を、大人になった今でも同じように好きでいることは難しい。それは友情と同じで、移り変わって当然なんだ。成就しなかったせいで『義弟が好き』という初期設定のままだったのが、漸くその設定が更新される時期を迎えたというだけだ。だって、最近ではその義弟と一緒に過ごす時間なんて殆ど無かったんだろう?反対に湊の方は毎晩一緒に食事をして、互いのことを語り合っていた。…どっちに惹かれるかなんて火を見るより明らかだ」
最初はウザイと思っていた廣瀬さんの言葉が、驚くほど胸に染みた。いや、己の身に置いて考えてみたのではなく、祥の立場で考えてみたのである。
あの子、もしかして惰性で私を好きだと思い込んでいるのかも。だとすれば、いずれ気づくはずだ…今の自分が好きなのは別の女性かもしれないと。
「あのう、廣瀬さん。私がもし祥を選んで、付き合ったら…」
「九瀬さんは非推奨ルートを選択するつもりなのかい?」
「いいえ、もしもの場合ですよ」
「そうだな、義弟を選んだらきっと…、今まで通りでこれと言って代わり映えのしない日常が続くだろう。よく考えてみろ、2人暮らしをしていたにも関わらず何も変えられなかった男だぞ?きっと手を出して来ないだろうし、結婚なんかも言い出せず九瀬さんはこのまま年老いていくに違いない」
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