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その20
しおりを挟むなんだかんだで湊と付き合い始めてから1カ月が経過した。
私は特別な存在だから、湊もなかなか手を出して来ないだろうという予想は呆気なく裏切られ、サクサクと部屋に連れ込まれてサクサクと事は為された。私個人の感想を述べさせて頂くと、本当にもう恐ろしいほどの手際の良さだ。
まあ当然か。だって湊はモテモテだから、切れ目なく押し寄せて来る女達を適当に躱しつつもそれなりに相手をしてきたのだ。…ふっ、また遠回しな表現をしてしまったが、はっきり言うとキング・オブ・ヤリチンなのである。
そういう男には下品なイメージが付き纏うものだが、湊の場合は違う。側室を持つことが常識だった古き良き時代の皇帝達の如く、彼に関しては万人から容認されてしまうのだ。
それは、せっかく美しい宝石を手に入れても引出しの中にしまい込んだままではその価値が誰からも評価されないのと同じで、出来るだけ多くの人の目に触れるようにと展示会なんかのド真ん中に飾る心理と似ている。
あと、アレだ。なんとビックリ!宝くじで一億円当たったけれども『これで一生分の運を全部使い果たしてしまったのでは?』と急に不安になり、幸運と不運のバランスを整えようとして周囲の人達にお金をばら撒く感じにも似ている。
私って、例え上手(話は長いけど)。
というか、うっ、いつの間にか脱がされてる!
そんで、チチ揉まれてる!
「七海、驚き過ぎ。いい加減慣れろって」
「そう言われましても…」
だって、さっきまでリビングでニュース番組見てたよね?!そんで、現地から台風の凄さを伝えていたリポーターに向かって私が『もういいから逃げて~』と呟き、それを聞いた湊が『そういやハリケーンって、なんで女性名が付けられるんだろうな?』とか言ってスマホで調べ始めた…までは覚えている。
検索結果を見た湊の『へええ』という声を聞いて、『なになに?私も知りたい』と横からスマホを覗き込んだところ、肩を抱かれてキスをされ。それと同時に膝裏に手が添えられていて、気付けば横抱き状態でベッドに運ばれていた…って、なんとスムーズな!
毎回、この調子で湊は驚くほど自然に私をベッドへと誘うのだ。それはまるで洗顔や歯磨きの様な日常の中のごく当たり前の行為の1つであるかの如く、何の抵抗も無く堂々とそこまで至るのである。
ほんと感心する。マジ、リスペクトだ。
たぶん今までその方面で失敗をしたことが無いのだろう。だから相手に強引だと思われても平気で目的を果たそうとする。そしてそんな湊だからこそ、私は余計に気を遣うのだ。…挫折に対する耐性が低いこの人を、傷つけない様にと。
考えてみれば可笑しな話ではないか。付き合う前は平気で何でも胸の内を明かしていたのに、付き合い出した途端、言って良いことと悪いことを選別し始めたのだから。
もしかして友達だった頃の方が、心の距離は近かったかもしれない。
「七海、今なに考えてる?」
「んー、いろいろ」
情事の真っ最中だというのに、色気の無い返事をするのは照れ隠しからである。余裕たっぷりな湊に対して、切羽詰まっている私…その差がなんだか悔しくて。
「うわあ、もう七海の中、トロットロ」
「もう!そういうこと言わないのッ」
どんなに澄まし顔をして見せても、きっと湊にはバレバレだ。ああ、気持ちいい、凄く気持ちいい。
ぐちゅぐちゅ。
ぐちゅぐちゅ。
キスの音なのか、それとも別の部分が繋がっている音なのか、もう分からない。
「入れるよ」
「…ん」
甘く蕩ける時間に思考まで溶けていく。
「はあ、気持ちいい」
「み…なと…」
祥は相変わらずで、偶に顔を合わせてもスルリと視線を逸らされてしまう。だから尚更私は、湊と過ごす時間を増やしていくのかもしれない。…もし、祥がこんな風にハードルを越えて近づいてくれたら、私達はどうなっていたのだろうか?
両想いでも実らない恋もあるし、
曖昧でも恋にしてしまえることもある。
そんなことを考えながら私は、そっと湊を抱き締めた。
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