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その21
しおりを挟むそして更に3カ月が経過した。
湊との交際は順調だったと思う。平日の夜はいつも一緒に食事して、休みの日も共に過ごす。周囲にもその関係が浸透したお陰か、2人きりの時に合流してくる女達も少なくなって、まあ何と言うか細やかな幸せを味わっていたのだが。
そんな時に、母が入院した。
胆石が見つかったのでレーザー治療をするのだと。手術には家族の立ち合いが必要だと言われ、案の定、私と祥が選ばれた。義父も弟妹達も『ふうん、そうなんだ』と言ったきり見舞いに来るのかすらも怪しい。しかも母の入院先で勤務先でもあるその個人病院は万年看護師不足だとかで、手術に対応可能な看護師が数名しかいないのだと。その看護師のスケジュール確保が優先となり、母は2週間ほど入院させられるらしい。
「…というワケで、母の面倒を見なきゃいけないから平日の夜は1人で食事して」
「ん~」
私のせいでは無いと分かっているのに、それでも納得いかないという表情で湊は頷く。
「2週間の辛抱だから、頑張ってよ」
「分かってるって」
なんだかんだ言って、私は自信が有ったのだ。誰とも真剣に付き合ったことの無いこの男が、初めて4カ月も続いたと周囲に驚かれていたから。そんな初めての女である自分を、たった2週間会えない程度で裏切ることは無いだろうと。
しかし、瀧本湊は容易く私の期待を裏切った。
それも、たった1週間で。
「へ?湊が、他の女とホテルに?」
「言い難いんだけどね、だって、私、見ちゃったんだもん」
ご丁寧にスマホで撮影したという証拠画像まで見せてくれたのは、同じ総務部の先輩だ。音無さんという名のその女性社員は、全然おとなしくなんか無くて、全国の音無さんに謝れと言いたくなるほど噂話が大好きなスピーカー女子である。
恐る恐るその画面を覗くと、どこをどう見ても湊で。しかもムッチリボインの腰を抱きながらホテルに入ろうとして…いや、確実に入ったよな、コレ。
取り敢えず本人から直接話を聞こうと思い、昼休憩の時間に誰もいない会議室で問い質すと、そりゃもう呆気なく白状されてしまう。
「あー、ごめん」
「えっ」
そんなアッサリ謝っちゃうんだ…。
拍子抜けしながら冷静を装って尚も問い質すと、悪気無くペラペラと事情を説明してくれた。
「俺も最初の数日間は1人でご飯食べてたんだぜ。でも、寂しくなってつい逆ナンしてきた女に同席を許しちゃってさ。で、そいつ、飲ませ上手なもんでついガバガバ酒を飲んだんだ。そしたらヘロヘロに酔っぱらっちゃって。なんかそういう判断能力ゼロ状態の時に体を押し付けてくるから、ついそのままホテルでヤッちゃったというワケ」
「へええ」
『つい』って便利な言葉だよね。でも、今日から私は絶対に使わないけど。
正直に話せば許されると思っているのか、湊はまるで禊を終えたかの様な清々しい笑顔でそこに立っている。
ドスッ!
「うぐっ」
「くっそ、ムカつく」
ええ、顔を殴ったら仕事に支障が出ますでしょ?…だから無防備なお尻を思いっきり蹴りましたのよ。おほほほ。
「い、痛いよ、七海」
「は?!浮気しておいて、何なのその態度ッ」
「えー、でも、酔ってたし、仕方ないだろ」
「は?!酔ってたら、何をしても許されると思ってるの?(パンッ)人を殺しても?酔ってたら、(パンッ)無罪放免になるんですか?!(パンッ)」
「痛い、痛い、尻を叩くなよ」
「アナタはね、性に対するハードルが低すぎるのッ。彼女がいるのに他の女と寝ちゃダメ!今度したらこんなお仕置きじゃ済ませないからねッ」
叱られているのに、何故か嬉しそうに笑った湊はやっぱり反省なんかしていなかったらしく。
残念ながらそのあと再び浮気をしてくださるのだ。
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