私に彼氏は出来ません!!

ももくり

文字の大きさ
23 / 45

その23

しおりを挟む
 
 
 最初に思ったのは、『なんて頭の悪そうな人』で。

 話し方だけで知能の程度が推し量れるはず無いだろうと己を窘めてみたものの、それでもやっぱりそう思ってしまうのだから仕方ない。

「もうミナトに近寄らないで!アレはね、私のなのッ!」
「はあ…あの…、近くに湊…瀧本さんはいますか?」

 スマホを勝手に使われているということは、当然、その周辺にいるのだろう。しかも『私の』と言い切るほどとなれば、これまた当然、深い関係になっているに違いない。

 くっそ、あの節操無しが。

「いたら何?!ゴチャゴチャ言わずにもう電話してくんな!ミナトが本当に好きなのはこの私なの!これ以上しつこくしたら警察に電話するからねッ」
「はあ…そうですか」

 >おい、どこに電話してんだよ?!
 
 湊の声がしたかと思うと、そのままスマホを奪い合う様な音が響く。続けて『キャア』とか『ヤダ』という甘えた感じの声が聞こえてきたので、なんだかバカバカしくなって私の方から電話を切った。

 シーン…。

 テレビではバラエティ番組がいつの間にか終わっていて、交通事故があったと伝えるニュースキャスターの険しい表情にこちらも思わずつられてしまう。その画面を見つめたまま、私には顔も向けずに祥が訊ねた。

「…あいつ、浮気してるのか?」

 言えるワケ無い。
 だって私は祥ではなく湊を選んだのだから。

 しかも『私だけは大丈夫!』などと偉そうに啖呵を切っておいて、これほど呆気なく裏切られているだなんて知られたく無かった。
 
 けれど嘘を吐いてもどうせ見破られてしまうので、唇を噛み締めながら曖昧に微笑んでいると急に視界が祥の顔で一杯になる。

「なあ、姉ちゃん、答えてくれよ。今、幸せ?」
「う…ぅん」

 『うん』とも『ううん』とも聞こえるはずの卑怯な答えに、祥は苦笑する。

「姉ちゃんが…、姉ちゃんだけは幸せになってくれないと、俺、諦め切れないよ」
「…ごめん、祥」

 おかしいよね、だって私達、両想いのはずなのに。

 お互いの気持ちを確かめ合っても尚、その関係は動かなかった。これほど傍にいて、いつでも触れることが出来たというのに、足踏み状態のまま止まってしまったのだ。ぬるま湯に浸っている様な温かな関係を壊すのが怖くて、適度な距離を保つことを選んだのである。

「俺は、臆病者の意気地なしだ」
「そんなこと無い、祥は私にきちんと想いを伝えてくれたでしょう?」

 だったら、どうして私達は結ばれなかったと言うのか。
 
 近過ぎて、一緒にいた時間が長過ぎて、どうするのが正解か分からなくなってしまったのかもしれない。ソファに座る私の前で跪き、懇願するかの如く手を握った祥は切なそうに微笑む。

「実の母親に『お前なんか要らない』と言われて、父親からも興味を持って貰えなかった。残念ながら新しく迎えた母親も子供好きというタイプじゃなくて、でもまあ、生まれてからずっと『こんなもんなんだろうな』って諦めてた」

 視線を絡めたままで、その顔が更に近づいて来る。一瞬、何をされたのか分からなくて、顔が離れて漸くキスをされたことに気付く。

「祥…」
「瞬も愁もまだ小さくて、俺の寂しさなんて贅沢な悩みだと思ってた。胸の中がスウスウして寒かったけど、でも頑張らなくちゃって。…そしたら姉ちゃんが…七海が一緒にいてくれるようになったんだ。いつでもニコニコ笑って傍に。七海と俺はチームみたいなもんで、2人だから頑張れたし、どんなにしんどくても最後に七海が褒めてくれたから、だから…七海と出会ってからの俺はずっと幸せだったよ」

 そんなに熱い瞳で私を見ないで。
 祥が祥じゃないみたいだよ…。

 ピンポンピンポン
 ピンポンピンポン

 突然、モニターフォンの柔らかな呼び出し音がリビングに響いた。祥から離れ、慌てて応答すると、モニター画面一杯に映し出されたその人は。

「み、湊…」

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

答えられません、国家機密ですから

ととせ
恋愛
フェルディ男爵は「国家機密」を継承する特別な家だ。その後継であるジェシカは、伯爵邸のガゼボで令息セイルと向き合っていた。彼はジェシカを愛してると言うが、本当に欲しているのは「国家機密」であるのは明白。全てに疲れ果てていたジェシカは、一つの決断を彼に迫る。

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家 結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。 愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。

放蕩な血

イシュタル
恋愛
王の婚約者として、華やかな未来を約束されていたシンシア・エルノワール侯爵令嬢。 だが、婚約破棄、娼館への転落、そして愛妾としての復帰──彼女の人生は、王の陰謀と愛に翻弄され続けた。 冷徹と名高い若き王、クラウド・ヴァルレイン。 その胸に秘められていたのは、ただ1人の女性への執着と、誰にも明かせぬ深い孤独。 「君が僕を“愛してる”と一言くれれば、この世のすべてが手に入る」 過去の罪、失われた記憶、そして命を懸けた選択。 光る蝶が導く真実の先で、ふたりが選んだのは、傷を抱えたまま愛し合う未来だった。 ⚠️この物語はフィクションです。やや強引なシーンがあります。本作はAIの生成した文章を一部使用しています。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...