私に彼氏は出来ません!!

ももくり

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その24

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 いちいちドラマティックな男だな。

 ハァハァ
 (急いだぞと言わんばかりに乱れた呼吸)
 
 ふぁさっ
 (汗で濡れた前髪をかき上げる音)
 
 キラキラ
 (私を見詰める熱い眼差しの効果音)

「ぐえっ」
「誤解させてゴメン、七海…」

 慌ててタクシーに飛び乗ったと言う彼は、玄関ドアを開けた途端いきなり私を抱き締めた。

「ちょっと待って湊、とにかく中に入ってよ」
「ん…、ああ、お邪魔します」

 そう言いながらもまだその腕の中に私を閉じ込めている。

 湊は玄関の三和土タタキの上、私はそこから続く廊下に立っているせいで段差が生じ、そのお陰で互いの顔の位置がいつもより近い。

 って、え?あッ、な…

 瞼を閉じる暇すら与えて貰えず、濃厚なキスをされていた。もともと湊はキスが上手いのだが、今回は特に素晴らしい。技巧だけではなく思念が込められていると言うか、例えるならば夫婦喧嘩をしたその晩、セックスで全てを解決してしまおうという雑な仲直り法にも似ている。
 
 そんなことを考えているうちにふと罪悪感に襲われ、そして頭の片隅に祥の悲し気な表情が浮かび始める。

 ごめんね、祥。

 初めて私にしてくれたキスだったけど、湊に上書きされちゃった。…本当にどうしてこの男は、毎回絶妙なタイミングで私を引っ張り上げてしまうのか。

 祥に落ちようとする私を。
 祥と恋に落ちてしまおうかと迷う私を。

 女だったら誰でもウットリするこの美しい顔で力強く愛を囁き、私の思考を麻痺させてしまうのだ。

「ほんといつも強引なんだから」
「ゴメン、でも…嫌いにならないで」

 ああ、もう。

 祥の真摯な言葉で温かく満たされていたはずの心が、湊によってジワジワと侵されていく。この男は女心を掴むのが本当に上手い。それは意図的に行なっているのでは無く、無意識にそうなってしまっているのがまた憎い。いつでも強気で偉そうなこの男が、私に向かって『愛して欲しい』などと懇願してくる。そんなことをされれば女としての優越感で満たされてしまうし、『この人を私だけのものにしたい』という独占欲も増す。

 延々と続いたキスから漸く解放され、ポーッとしている私の背後から祥が声を掛けて来た。その瞬間、身が凍る。

 湊とキスをしているところを見られてしまった。

 私は最低な女だ、だって拙いながらも真剣に祥が愛を伝えてくれたのに、その僅か数分後に湊とキスをしているだなんて。──意味も無く身なりを整えながら私は祥より数歩遅れてリビングへと戻り、ソファに腰を下ろすと先程の祥と同様に湊が私の前で跪いた。

「言い訳をさせて欲しい。今日、俺は昔馴染みの数人と飲んでいて、そのうちの1人がスマホのバッテリーが切れたとかで『電話を貸して欲しい』と言ってきたんだ。そいつ、既婚者で奥さんが臨月なのに夫婦喧嘩した勢いで飲みに出てしまったけど、やっぱり心配になって奥さんの様子を確認したいと言ってた」

 …で、スマホを貸した直後に別の男友達から話し掛けられた湊は、思いのほか会話が盛り上がってしまい。その間にスマホを借りた友人は奥さんが産気づいたと聞き、急遽病院に向かうこととなる。慌ててスマホを返そうとしたものの湊の姿が見えなくて、どうしようかと思案していたところに湊と彼の共通の知人であるミユキという女性が『預かります』と言ったらしい。

 この後、彼女はロック解除された湊のスマホを弄りまくって今カノである私に電話を掛ける。目的は別れさせる為。どうやらミユキちゃんは湊が大・大・大スキだったようだ。

「だから、浮気はしていない。七海を不安にさせて悪かったけど、あの電話のことは綺麗サッパリ忘れてくれないか?」
「うん、分かった。でも、ひとつだけ訊いてもいい?」

「ああ、何だ?」
「今じゃ無くても、過去に寝たことが有るんでしょ?…そのミユキちゃんと」

 だって、そうじゃなきゃそんなに思い詰めるはずが無い。真っ直ぐに湊の瞳を見詰めると、彼はそれを逸らさないまま悲し気に頷く。

「俺の過去は汚れてグチャグチャだから…でも、それはどうにも変えられないし、この前の件のことも言われると何も言えない立場だけど、でも、これだけは覚えておいて欲しい。

 …俺は七海が死ぬほど好きなんだ」

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