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その31
しおりを挟む…なんだコレ。
「そうなんですよ!お姉ちゃんと接した人は必ずお姉ちゃんを好きになるの」
…どうしたコレ。
「どんな相手だろうと笑顔にしちゃう」
…助けてコレ。
「お姉ちゃんの傍にいると幸せになれると評判なんですッ」
美空による恐ろしいまでの『姉プッシュ』。
私、今までずっと美空からバカにされてると思ってた。
だっていつも『お姉ちゃんって要領悪い』とか『他人に利用されてばかりじゃダメだよ』などとグチグチ説教されることは有っても、こんな風に褒めてくれることは無かったから。まさかここで称賛されるとは驚き過ぎて声も出ない。
まだまだ美空の『姉プッシュ』は続いたが、さすがに当の本人である私は恥ずかし過ぎてひたすら俯くばかり。すると正面から番場さんが顔を近付け、ヒソヒソ声で教えてくれた。
「美空ちゃんねー、いつもこんな感じで七海さんを自慢しまくっているんっすよ。んもう、マジで姉ラブ拗らせ過ぎ」
「ええっ、姉…ラブ…?!私を召使いとしか思っていないはずの美空が?!」
「ちょっ、七海さん、声が大きい…って、あ…コレで会話しよっか」
「え?…うう、うん」
「そのスマホ、ちょっと借りるよ」
「あ、はい」
コレというのはLINEのことで。パパッと番場さんが友達追加の設定をしてくれたのだが、やはり私の考えは甘かった。何故ならこの男も湊同様、チャラい遊び人なのである。…と言うことはつまり、女子高生並みに入力が早いためメッセージ・ボム状態になってしまったのだ。
>身内の場合、
>本人に向かって直接褒めないでしょ?
>俺だってそうですよ。
>両親には感謝の気持ちしか有りませんが、
>それを直接伝えるのは
>とても気恥ずかしいです。
>>へえ。
>たぶん美空ちゃんは
>重度のシスコンだと思いますよ。
>今まで七海さんがしてくれたことに
>ものすごく感謝していて、
>本人に向かって
>直接御礼を言いたいけれども、
>照れ臭くて出来ないだけでしょうね。
>>しすこん。
い、いけない、返信が追い付かなくて、私ったらまるでスマホデビューしたばかりの老人状態だ。っていうか、よく考えたらシュールじゃない?飲み会の席で妹がメチャクチャ姉のことをアゲまくってて、その肝心の姉は目の前にいる男と直接会話せずにポチポチと文字を入力し、それで意思疎通を図っているだなんて。
あと、どうでもイイけど番場さんったら口調はアホっぽいのに、それがLINEメッセージになると真面目になっちゃうのはどうして?なんか違和感ハンパないんですけど。
>本当に仲の良い姉妹で、
>見ているこちらも
>微笑ましくなりますよ。
>>そうですか。
…と、ココで美空の『姉プッシュ』がひと段落ついたらしく、不審な姉とその正面の男の行動に興味を抱いた様だ。
「お姉ちゃんとバンちゃん、何こそこそLINEしてるの?」
「え?いや、何でもない!私は着信が無いか確認してただけだよ」
「嘘!怪しいしッ。バンちゃんみたいな軽い男に騙されちゃダメだよ!」
「ほ、本当にそんなんじゃないんだってば」
と言い訳しながら、ついクセで着信が無いか本当に確認してみる。
>湊湊湊湊湊湊
こわっ。
湊からの着信表示だらけの画面に思わず震え、LINEの方も念の為にとチェックしてみたところ。
>今どこ?
>店どこ?
>七海どこ?
『どこシリーズ』が延々と表示されており、その次に
>返信しろ
>電話しろ
>何か反応しろ
…『しろシリーズ』が延々と続けられていた。
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