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その36
しおりを挟む長方形のテーブルに男性4人と女性4人が向かい合い、その端の席に湊が加わったのだが。私を膝に乗せているせいで、真横に座っている美空とは物理的に顔を合わせ難いらしい。チャンスとばかりに立ち上がろうとする私を、その両腕で固定しながら湊は顔の向きを根性で変えた。何故それが分かるのかと言うと、彼の鼻息を後頭部で感じなくなったからである。
見てる、すっごく見てる。
彼氏と妹が見つめ合ってる。
多分、湊は美空に対して良い印象を抱いていないだろう。それは祥との件で『周囲を引っ掻き回しておきながら、事態を収束させなかった無責任な妹』と認識してしまったからだ。それに加えて、苦労自慢をした際に美空を悪役として登場させていたせいでも有る。だって家族のエピソードは必ずウケる鉄板ネタだったから、つい面白可笑しく脚色しちゃったんだな。
ごめん、美空。
湊はアナタのことを“シンデレラのお姉さん”的な位置づけで見ていると思うわ。だからと言って私がシンデレラというワケでも無いんだけどね。あー、もう何なのかなこの息詰まる緊張タイム。ひたすら見詰め合ったまま、両者とも頑なに沈黙を守っているんですけど。
湊の膝の上で正面を向いたまま視線のみを湊と美空に送っていた私だったが、さすがに首が疲れてきたのでヨイショヨイショと呟きながら横向きに座り直す。
すると、漸く2人が口を開いた。
「初めまして、妹の美空です」
「俺は瀧本湊。よろしく」
続けて美空が何か言ったみたいだが、タイミング悪く同時に湊も何やら私の耳元で囁いたせいでその声は掻き消されてしまう。なのでまた微妙に座る位置を変えてみた。
「あの…お姉ちゃん……かれて…い」
「こら、七海。そんな風に動くとエレクトするだろ」
「えれくとォ?」
ヒソヒソ声の湊とは対照的に、私の声は大きい。
いや、普段滅多に使用しない単語ですからね。口に出してから脳内でその意味が『勃起』であると表示された時の驚きときたら、本当に死ぬかと思いましたよ。
しかし湊は動じず、ニッコニコ。
もしやコレ、羞恥プレイなのか?
どうにか止めさせようと努力してみたものの湊がそれを許してくれず、再び耳元でヒソヒソされてしまう。
「ほら、ちょっとだけ芯が硬くなってきてるだろ?七海の柔らかいお尻で擦られたせいだぞ」
「うっ、ああ…」
ほんと下品すぎる。
で、私に何と答えろと?
「後で責任取ってくれよ」
「ひゃあっ」
耳を舐められたんですけどっ。
やだもう、何なのこのエロ男!!
キッと睨む為に視線の狙う先を探っていたら、熱く滾る様な湊の瞳に思わずニヤけてしまう。
くっそ男前だな!
うう…、めちゃくそキスしたい。
強靭な理性でどうにか性欲を押し込め、顔も徐々に引き締めていたら美空が先程の言葉を再び発した。
「瀧本さん、お姉ちゃんと別れて私と付き合ってくださいよ」
一瞬でそこにいた全員が固まる。…聞き違い…じゃないよね?このコ、たった今、私の彼氏を口説いたよね?
「は?寝言は寝て言え」
「起きてますよ~、ほら、お目々だってパッチリ」
「俺がお前ごときに靡くと思うのか?マジむかつく」
「私、お姉ちゃんよりも美人じゃないですか。大抵の男性は私を選ぶんですけど」
「あのなあ、お前よりも綺麗な女はごまんといるし、別にそれほど美人でもない」
「あはは、傷付けようとしたって無駄ですよ。私、結構メンタル強いんで」
小さい頃から美空はトラブルメーカーだった。そしてやっぱり今日も、一波乱起こしてくれるみたいだ。
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