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その37
しおりを挟む最早、宴の主役は湊と美空だ。
私の視界には男性陣しか映らないのだが、明らかに皆んなワクワクしている。そう、大人の代表選手みたいな松原さんですら、夏休みに裏山でカブトムシを見つけた少年の様な瞳をしているのだ。
しかし主役達は怯まない。
華やかな容姿でこの世に生まれ、そして常に注目を浴びて育ったお陰で視線なんぞにはビクともしないのだろう。舌戦は一層激しいものとなり、誰にもそれは止められない。
「俺が今まで付き合って来た女はな、お前なんかよりずっと美人だったし、スタイルだってボン、キュッ、ボンで超ナイスバディだったぞ」
「へええ、じゃあ、どうしてそのナイスバディと別れたのよ?!」
「そんなん、飽きたからに決まってるだろうが」
「…飽きた?!きゃああ、上から目線、キモイ~!ということはお姉ちゃんも飽きたら捨てられるってこと?!わああ、こわ~い、お姉ちゃん可哀想~」
「七海には、飽きない」
「嘘だああ。だって、アナタ、女を見下すタイプだよね?言い寄られて、『仕方なく』という感じで付き合ってあげるんでしょ?で、都合よく扱って、相手が自己主張するようになったら潮時と判断して切り捨てるんだわ。私はね、そういう男が身近にいて、それを眺めて育ったからよく分かるの」
美空の言う『身近な男』とは、たぶん義父のことだろう。あの人と男女の関係になった美空だからこそ、言える台詞だ。
「七海は他の女と全然違う。俺に何も望まないし、期待しない。…俺の愛を欲しがらないんだ。なのに、無償の愛をくれる。お前も妹なら分かるだろう?七海の愛は底なし沼みたいに深くて、心地いい。俺さ、寂しがり屋なクセして1人の方が呼吸がラクっていう厄介な男で、一緒にいてくれる女も適度な距離を保って欲しいっていつも思ってた」
「うっわあ、面倒くさ」
「まあ、最後まで聞けよ。でも心の奥底でそんな女、いるワケ無いとも思ってて。だって、女ってのは常に自分と誰かを比較しなければ生きていけない生き物で、その誰かに勝つ為に俺を選んでいるんだから。まあ、簡単に言えば俺は“見せびらかし要員”だ。お前は俺が女を人間として扱っていないかの様に言ったけど、実際はその逆だよ。──彼女達にとって俺はアクセサリーで、人間じゃない。だからいつでもどこでも連れて歩こうとする。そんなの嫌だと反抗して、別れて、また次の女が現れて俺をアクセサリーにする」
「そんなの、断ればいいじゃない」
「断ったさ。でも、次から次へと現れるんだぞ?本当にキリが無い。だから適当に誰かにぶら下がっていた方がラクだったんだよ…今まではな」
「ふ…うん…」
徐々に美空の口調が柔らかくなってきた気がする。それが何だか嬉しくて湊の手をそっと握ると、湊もキュッと握り返してくれた。
「七海には、俺の方から付き合ってくださいと言った。きっとこれを逃したら一生、出会えないと思ったから。だって呼吸がラクなんだ。どんなに一緒にいても、足りないんだ。『じゃあまた明日』って言うのが辛いなんて初めてだったんだよ。妹のお前から見れば、こんな男は信用出来ないと感じるのは当然だし、自分が体を張ってでも別れさせたいと思うのもよく分かる。
だけど、俺にもチャンスをくれないか?もう暫く時間を掛けて、瀧本湊という人間を見て欲しい。自信は有るんだ、俺は絶対に七海を幸せに出来るって。だって、俺がドチャクソ幸せだから。七海は誰かを幸せにすると、自分も幸せになるっつう目出度い女で、俺が世界一幸せになると、七海も幸せになるんだよ。なッ?妹が反対するなんて、絶対に七海は悲しむから。だから頼む、俺達を祝福してくれ」
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