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その38
しおりを挟む湊は俺様どころか王様みたいな男で。
基本は上から目線だし、仕事は例外としてプライベートで頭を下げるなんて有り得ないというのが信条だったはずなのに。今、目に映る姿は幻影なのだろうか。私が膝に乗っているせいで身体の自由が利かないとは言え、誰が見ても美空に向かって頭を垂れ、そして懇願している。
くうう、こんな私ごときの為にッ。
さすがの美空もこれで折れてくれると思ったのだが、残念ながら手強かった。片頬を引き攣らせ、下唇を噛み締めながらこう答えたのだ。
「ダメです、私は認めない」
「どうして?!何故なの美空ッ」
ちょっ。
それ、私のセリフ…。
奪ったのは美空の反対隣りに座っている竹中さんである。
「私はッ…私だけは認めちゃいけないの!だって、お姉ちゃんは知らないでしょ?あのね、祥ちゃんはお姉ちゃんのことが好きなんだよ。お姉ちゃんも祥ちゃんが好きなんだよね?そんなの皆んな知ってたのに、でも、お姉ちゃんとお母さんだけが気付いてなくて、本当は両想いの2人を…私が壊しちゃった…」
ここで私が返事をしようと思ったのだが、再び竹中さんがその機会を奪う。
「祥ちゃんって、美空と七海さんの義理の弟なんですよ。連れ子同士の再婚でひとつ屋根の下、甘酸っぱい初恋が育まれていたけど運命の悪戯で…というか美空のせいで、相思相愛のはずの七海さんと祥さんの仲が引き裂かれたというワケでして」
ああ、なんかもう、この人のせいで調子が狂うな。気を取り直して私はゆっくりと口を開く。
「知ってたわよ」
「えっ。何を知ってたの、お姉ちゃん?!」
「祥から好きだと言われたもの。でも、私はそれを拒絶して湊の方を選んでしまった。だから、美空が罪悪感を抱く必要は無いんだよ」
「あの…、祥ちゃんが気持ちを告げたのって、いつ頃?」
「つい最近だけど。…ああ、またそういう顔をしないでよ。いいの、長年一緒にいて、いつでも恋人同士になれたはずなのに、私と祥は結局そうならなかったんだから。それはきっと、そういうことなんだよ。全てを捨ててまで、互いを選べなかった…ただ、それだけ。そこまでの感情じゃなかったんだと思う」
「ううう、お姉ちゃん、ごめんなさい。本当は早く伝えようとしたんだよ。でも、そうするとあの人とのことも話さなければいけなくなるし、そんなことを知ったらきっとお姉ちゃんは私を軽蔑するでしょう?でも、当時はどうしても自分で自分を止められなくて」
「うんうん、もういいんだよ。バカだなあ、泣かないでよ美空」
「だって、構ってくれたの。お姉ちゃんも祥ちゃんも家事で忙しくて、双子達は2人だけの世界で楽しそうだったし、あの家で私だけが孤立してると思ってた。とにかく構って欲しくて、散々我儘を言ってみたけどお姉ちゃんは何でもハイハイって受け入れてしまうし、それはそれで寂しくて。そしたらあの人が、優しく甘やかしてくれたから、コロリと参っちゃったんだ。…でも、呆気なく捨てられちゃったけどね」
孤立だなんて…。
そんな風に感じていたことを知り、胸がギュッと苦しくなる。そうか、そのせいであのバカ義父に篭絡されてしまったのか。ああ、悔しいけれど今更どうにも出来ないんだ。怒りにも似た感情が右手を動かし、無意識のうちに私は美空の頭を撫でていた。
「お姉ちゃん、大好き。いつも私の為に頑張ってくれて、本当に有難う」
「どういたしまして。私も美空が大好きだよ」
「だからお姉ちゃんには、世界で一番幸せになって欲しいの」
「私も、美空には幸せになって欲しいと願っているよ」
いつしか美空も私の頭を撫で始めた。
「本当に祥ちゃんじゃなくて、いいの?」
「うん。いつか後悔させられるかもしれないけど、でも、湊になら、仕方ないと思えるから」
ここで頭上から声が降って来た。
「は?後悔なんかさせねえっつうの。見とけよ、俺の愛し方を。むしろ七海の方が、俺に本気を出させたことを後悔するかもな!」
「ひゃああ、男前~」
ちょっ。
また勝手に割り込まないでよ竹中さん!
そう思いながら、今度は私も素直に相槌を打った。
「まったくだわ」
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