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その39
しおりを挟む恋をした際の利点は幾つか有るが、その中のひとつに一時的にパワーアップするということが挙げられるのではなかろうか。だがしかし、その期間や量を己でコントロール出来ないという難点を併せ持つが。
しゃらくさいことを言わせていただくと、
今の私にはパワーが漲っているワケで。
それはニンニクの丸焼きを食べたり、1本3千円もする栄養ドリンクを一気飲みした時なんかよりも、もっと強大なパワーだったりするが…ああ、勿体無い。内側からどんどん溢れ出てくるこのパワーはなんだかんだで過剰分として放出されてしまい、最終的には無駄になってしまうのだ。
…いや、待てよ。
「番場さん!」
「えっ、何?」
「私、先程のご依頼を受けようかと思います」
「お…あ…、そうしてくれると助かる」
幸せのお裾分けでもないけれど、この勢いで番場兄の件も解決してあげようじゃないの…そう思った次第である。やってみたその結果がダメならダメでそれは仕方ないじゃないか、それでも挑んでみる価値は有るはずだ。取り敢えず番場兄の詳細と接近方法を確認しようとしたところ、背後から湊の声がした。
「何だその話は?きちんと俺に説明しろ」
「えっと、あのね…」
残念ながら、膝の上に乗せられたままなのでその表情は窺い知ることは出来ない。だが、番場兄弟の確執を主軸として、兄が弟になりすまし悪質な嫌がらせをしていることを私が説明すると、湊は容赦なく切り込んでくる。
「ダメだ」
「どっ、どうして?だって、番場さんの仕事にまで影響が出てるんだよ?それにお兄さんもずっとそんな状況のまま暮らすのは辛いに決まってるし」
「普通に考えてみろよ、相手は闇を抱えて鬱屈としている男だぞ?憎い敵である弟が寄越した七海も、同様に敵認定されるだろうし、そうなるとどんな危害を加えられるか分かったもんじゃない」
「いやいや、そんな大袈裟な」
「大袈裟じゃない。ていうかさ、なんで真っ先に俺のことを思い出さないんだよ」
「湊のことを?」
「俺の家庭環境の話…ああ、そうか、あの時いたのは廣瀬さんと朱里だけで、七海はいなかったのか」
「ん?いったい何の話」
振り返ろうとしたが、背後から抱き締められているせいで身動きが取れない。
「俺にも兄貴がいてさ、番場のところと似た感じだったってこと」
「へえ、そうだったんだ」
本当は朱里ちゃんから事細かに聞いていたが、湊本人がいない場所でアレコレ情報を入手していたことを知られたくなくて、躊躇ってしまったのである。
「俺が行く」
「んまあ!」
まるでどこかのマダムみたいな相槌を打ってしまったのはご愛敬だ。とにかく、この件に関しては湊メインで動いてくれるのだと。両手をパアに広げて驚きの表現をする私に向けて、湊は尚も続ける。
「七海も一緒に来い」
「やったあ!」
って、嬉しいのか、私。
「そして俺の経験から言うと、闇を抱えた暗黒モードの時はヒマさえ有れば誰かを恨んでしまうから、とにかくそんなことを考える隙を与えない方がいい」
「でも、それってどうすれば…」
「振り回し要員を出動させろ。…おい、七海以外の女ども」
「み、湊?そんな乱暴な括り方…」
しかし、中島さんも竹中さんも美空も元気よくハイと返事をする。
「よ~し、いい返事だ!お前ら、バンバ・エンジェルスになれ」
「バンバ・エンジェルス…」
激しく首を傾げる私とは対照的に、聡い女子の皆様達は『OK!ボス』とノリノリだ。
「俺と七海とこの女どもの計5人で番場の兄貴に会い、最終的には女どもと仲良くさせて復讐なんかよりも楽しいことに時間を使わせる方向を目指そう。いいか、女ども!お前達の腕の見せ所だ、頑張れよ!」
「え、えええええっ?」
思いっきり引いているのは私だけらしく、バンバ・エンジェルスはキャッキャしている。
>番場さんのフリで復讐の為に
>女性を弄んだ男だよ?
>ガツンと制裁を与えなくちゃ。
>とにかく3人で会って、
>誰か1人を選ばせようよ。
>ふふふ、
>私、そういう駆引きは得意なの。
>私もその昔、
>親友の彼氏から言い寄られて
>ラグビー部の男子とか巻き込んで
>ガッチガチにシメたからね!
>きゃ~、こわ~い!
>竹中さんって見た目に寄らな~い。
大丈夫なんだろうか、コレ。一抹の不安を抱えながら私は、彼女達を見詰めた。
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