41 / 45
その41
しおりを挟むとまあ、ミチルちゃんの話は置いておいて。とにかく本題に入ろうとしたところで番場兄が心情を吐露し始めた。
ふむふむ、どうやら意外と展開が早そうだ。いや、むしろその方が有り難いんですけどね。だって私は明朝9時に引っ越し業者さんが来る予定なので、正直に言うとこんなことをしている場合では無いのですよ。
よ~し、この調子で巻いてこ!
「…あんた達には分からないんだよ、どんなに頑張っても認めて貰えない俺のことなんて。物心ついた時からずっとだぞ?無償の愛をくれるはずの母親がそれを与える相手は弟限定で、俺には塵ほども与えたくなんだとさ。弟もそれを知っているくせに、母親に対して何も言わない。なあ、そんなのおかしいと思わないか?」
どうやら番場兄は世界で一番自分が不幸だと思っているらしい。
ここで湊がごく軽い口調で返事した。
「別におかしくない、よく有る話だよ」
「は?!あんた本気で言ってるのか?!」
「だって、ウチもそうなんだけど」
「ってことは、あんたにも兄弟がいて、母親から差別されて育ったと?」
「ああ、残念ながらな」
「…へえ」
淡々と話は続けられた。
大手企業の社長の息子として生まれた湊は、後継者である兄のサポート役になりたいと幼い頃から全てに於いて頑張っていたそうだ。兄・衛さんは、幼少時から神童と呼ばれていたほど優秀な人で、周囲の期待も大きく膨らんだらしい。
しかし、彼の父親の取り巻き連中はそれ以上に優秀で、次期社長の育成の為にとその指導は容赦無く。事ある毎にプレッシャーを与え続け、決断を迫り、そして幾度も衛さんの能力を否定した。
生まれてから一度も挫折を味わったことの無い男が、成人後にいきなり叩かれるとどうなるのか?
「…兄貴は呆気なく精神を病み、そのままドロップアウトしたんだ。そして当時入社2年目の俺にお鉢が回ってくるワケ。まあ兄弟は2人だけだし、それが順当だよな?ところがここで母親が猛反対するんだ」
「それは…何故?」
「自分の息子をこれ以上犠牲にしたくないと。『衛を壊しておいて、次は湊まで犠牲にする気か?』とヒステリックに泣き叫び、連日、会社に来て騒ぎまくったせいで、俺が跡継ぎになる話は消滅した。だが話はここで終わらない」
「えっ?まだ続きが有るのか」
「暫くして、母の真意を知ってしまうんだ。母は隠そうとしたんだろうけど、まだ精神的に不安定だった兄貴が直接こっちにバラしてくれてね。『俺が出来なかったことを、湊なんかに成し遂げられては困る。だって、まるで俺がお前に劣ってるみたいに思われてしまうだろう?だから母さんに頼んで、湊が後継者にならないようにして貰ったんだよ』と」
「はは…、なんだそれ…」
湊は、真っ直ぐに番場兄を見詰めている。
「母に褒めて貰おうと勉強もスポーツも必死で頑張ったのに、結局何をやっても無駄だったということだ。母の優先順位は何が有ろうと兄貴が一番で、俺は二番ですら無い。むしろ邪魔な存在だと分かったら、何もかもバカバカしく思えてしまってな。こんな俺でも最初はさ、『少しでも兄貴の力になれたら』なんて殊勝な考えで入社したんだぞ?でも、あいつらの本性を知ったせいで、そんな自分が哀れになったと言うか。そのまますぐに辞表を提出し、ヤケクソで遊びまくったというワケ」
「そうか…そうだったのか…」
「生前贈与のお陰で働かなくても食っていけるし、好き放題にやってやったんだよ…当てつけにな」
「その気持ち、凄くよく分かるよ」
「だけど、何をしても虚しくてさ。で、ある日突然気付くんだ。なんで俺、自分の人生を浪費してるんだろうって。今の自分は、むしろあいつらを喜ばせているんじゃないかって。そして、運命の出会いを迎えちゃうんだなあ」
「……」
そう言いながら、湊は私の肩を抱き寄せた。
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】
remo
恋愛
あなたにとっては遊びでも、私にとっては、…奇跡の夜だった。
地味で平凡で取り柄のない私に起きた一夜のキセキ。
水村ゆい、23歳、シングルマザー。
誰にも言えないけど、愛息子の父親は、
今人気絶頂バンドのボーカルなんです。
初めての恋。奇跡の恋。離れ離れの恋。不倫の恋。一途な恋。最後の恋。
待っている…
人生で、一度だけの恋。
【完結】ありがとうございました‼︎
元男装傭兵、完璧な淑女を演じます。――嫁ぎ先はかつての団長でした!?
中野森
恋愛
貧乏男爵家の長女クラリスは、弟の学費を稼ぐために男装して傭兵団へ入団した。
副団長にまで上り詰め、団長をはじめとした仲間から信頼を得るが、決して正体は明かさなかった。
やがて戦争が終わり、傭兵団は解散となる。
出稼ぎするために流した嘘の悪評により、修道院入りを覚悟していたクラリスだったが、帰郷した彼女を待っていたのは父からの「嫁ぎ先が決まった」という一言だった。
慌ただしく始まる淑女教育、そして一度も未来の夫と顔合わせすることなく迎えた結婚式当日。
誓いの言葉を促され隣からきこてくる声に、クラリスは凍りつく。
……嘘でしょ、団長!?
かつての想い人でもある傭兵仲間が今は夫となり、妻の正体には気づいていない――気づかれてはいけないのだ、絶対に!
本作品はゆるふわ設定、ご都合主義、細かいことは気にしたら負け!
※この小説は、ほかの小説投稿サイトにも投稿しています。
番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~
雨宮羽那
恋愛
魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。
そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!
詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。
家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。
同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!?
「これは契約結婚のはずですよね!?」
……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……?
◇◇◇◇
恋愛小説大賞に応募予定作品です。
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"
モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです!
※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる