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23.マミは壮亮に叱られる?
しおりを挟むしかし、やっぱりと言うか。
引っ越しすらしていない段階で、松原さんに不審がられてしまった。いやー、あの人、マジ鋭いよね。お誘いの電話を二度ほど断っただけなのに、アッという間にウチのマンションに乗り込んで来るんだもん。というかさ、彼からしてみれば、いつもはワンコールで電話に出ちゃう竹中マミが、そして『来い』と言われれば猛ダッシュで来る竹中マミが『行きません』と言うんだから、そりゃあ不審がるっつうもんよ。
「なあ、俺に隠し事が出来ると思ってんのか」
「は、はあ」
「マーミー、怒らないから言ってみろ。なんか俺に会えない理由が有ったんだろ?」
「理由は、えっと、その…」
がんばれ、私!
フレフレ、私!
自分で自分を応援してみたものの、事態は一向に好転しない。いっそ本当のことを言えたらどんなにラクだろうか。だけど、まだ言えない。いま言えば絶対に困らせてしまうから。って、ん?困らせる度合いで言えば、黙って産んでしまった後の方が絶対に高いよね。で、でも、私はちっとも困らないからッ。だって死ぬほど好きな松原さんとの子供だよ?!あー、でも松原さんにとっては迷惑以外の何物でも無いんだよなあ。
養育費だの、認知だの、老後の遺産問題だの。ネットで調べてみれば、懸念事項は幾らでも出てくる。今はこうして心配してくれている松原さんだけど、相談もせず勝手なことをした私を、いつか憎む日が来るのかもしれない。
それでも、私は欲しいのだ。
この人との、愛の証しを。
ごめんね、松原さん。ずっと傍にいるという約束、守れなくなるかもしれない。だけど、自分の我儘だから覚悟は出来ているんだ。うん、分かってるの。世間からどう見られるか、とか、この先どうなるか、なんて。わざわざ苦労しなくてもと、咲さんからも言われたけど、そんなの全然平気。だって、大好きな人と自分の血が混ざりあって、1人の人間となって生まれてくるんだよ?そんなの絶対に見たいし、全身全霊で可愛がりたいに決まってる。
「ったく、ひとりでウジウジ悩みやがって」
「悩んでなんか…っ」
仏頂面で胡坐をかいていた松原さんは、正面に座る私の二の腕を掴んだかと思うと、あっという間に自分の膝に乗せ、背後から抱き締めた。
「どうせ『大好きな松原さんの子供を、私ひとりでも頑張って産むわ』とか、意気込んでるんだろ?」
「…は?な、ど、どうしてそれを」
驚き過ぎて、金魚のようにパクパクと口を動かすしか出来ない私に、松原さんは予想外の言葉を吐くのだ。
「お前は…、ほんと…可愛いな」
「へ?かっ、かわ…いい?」
絶対に叱られると思ったのに、それどころか可愛いだなんて。もしかして私、このまま死ぬの?!
「あーっ、マミ、ほんと、くそ、マミッ!」
「は、はいいっ?」
ひょっとして、これからミッチリ叱られるのでしょうか。身構える私に、松原さんは淡々と続ける。
「俺、お前のことが好きみたいだ」
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