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24.マミは吃驚する

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 怒涛の如く、押し寄せてくる感情。
 
 なんだ、これは。歓喜なのか?それとも戸惑いなのか?自分でもよく分からない。でも、だって、今までずっと拒絶され続けていて、それが当然だと思っていたから。それが、まさか相手の方からウエルカムと言ってくるとは思いもしないではないか。ったく、拍子抜け…ううん、違うな、これは不信感だ。
 
 とにかく、すっ飛ばし過ぎなんだよ、松原さん。徐々に好意を伝えてくれていたら、私だって納得するのに。ある日突然、自分への対応が塩からハチミツに変わったら、そりゃあ混乱するっつうの。
 
 ったく。器用なようで、ほんと不器用な人だな。
 
「俺さ、好きな女は大事にしたいんだ」
「は、はあ…」
 
「でも、お前との場合は始まりがダメダメだったから。諦めさせようと心を鬼にして、酷い扱いをした自覚は有る。なのにあんな嬉しそうな顔して会いに来られたら、絆されるに決まってるだろ!あんな、あんな、俺のことを好きで好きで堪りませんって顔!あれ見たら、こっちも堪らなくなるっつうの!それとな、ほんの少し優しくしただけで、メチャクチャ幸せそうにしやがって。本当の実力は、こんなもんじゃないからな!俺はもっともっとお前のことを幸せに出来る!だけど、今更どの面下げて優しい男になればいい?俺は悩んだ。悩んで、悩みまくって!」
「はあ…悩みまくって?」
 
 そんなことより、これは本当に松原さんなのかな?もしかしてソックリさんという可能性はないだろうか?いつもの冷静沈着で淡々とした口調で話す松原さんは、いったい何処に。
 
「コンドームに、穴を開けた」
「ぐぶはッ」
 
 全然『そんなことより』じゃ無かったッ。な、な、なんてことをしてくれたのか、この人は?!いやいやいや、松原さんを困らせたくないと悩んでいたら、その原因が松原さん本人だったって、どんなオチよッ。
 
「1つだけでは効果が出なかったようだから、次は2つ、次は3つと徐々に穴を開けまくってだな。お前が妊娠して、俺にそれを報告してくれれば『仕方ない』というテイで結婚出来るだろ?そうなればこっちのモンじゃないか」
「コンドームに穴を開けるなんて、どちらかと言えば女子のする所業ですし、そんな古臭いこと、もはや都市伝説なんですけど」
 
 そうじゃないぞ、竹中マミ。
 
 ここはそんなことを突っ込んでいる場合じゃなくて、もっと他に言うことがあるはずだ。そう思うのに、なぜか脳内で言葉が纏まらない。──うん、私ってば、とっても動揺しているみたい。 

「都市伝説だろうか、なんだろうが、とにかく穴を3つも開けるのはなかなか難しくてな。破らないようにするために、何度も試行錯誤して頑張ったんだ」
「そっ、それは…頑張りましたね」
 
 褒めてどうする、竹中マミ。
 
 まずはそんな姑息なことをする松原さんをきちんと叱るべきだし、今後のことも話し合わなければ。
 
「ああ。頑張ったお陰で、どうやら待望の第一子を授かったようだ。色々と心配をかけてすまなかったな」
「し、心配と言うか、何と言うか。えっと、取り敢えず一発殴ってもいいですか?」
 
 松原さん本人にも、悪いことをしたという自覚は有ったのだろう。大人しく頬を差し出したので、遠慮なくグーパンチで殴らせていただいた。
 
 
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