私たちは恋をする生き物です

ももくり

文字の大きさ
16 / 33

彼らの言い分・7

しおりを挟む
 
 
[彼のその後~龍side~]





 ……
 別れを電話で切り出すとか、最低だと思う。でも、本当に無理だった。顔も見たくないし本当は声だって聞きたくない。

「もしもしっ?飲み会、終わったの?今からウチに来るんでしょう」

 電話の相手…中村紗希は俺の今カノだ。
 それをこれから元カノにするのである。

 バカだな、俺。いい様に手の平で転がされてただけだったなんて。真実を知り、1人になってからジックリと駅のホームで考えた。確かに未来は一匹狼みたいな女で、同期の中では誰ともツルまず浮いていて。しかも純粋で、人を疑ったりしない性格だったから紗希の嘘を丸ごと信じてしまったのだろう。

 でもさ、付き合ってる彼氏がいるのにその彼氏の男友達を狙うだなんて普通は思わないよな?ヒトの彼女に『彼はアナタを騙しているのよ!』とか有ること無いこと吹き込んで、別れさせた挙句に自分と付き合うように仕向けるとかさ、まともな人間のすることじゃ無いって。

 ちょっとしたサイコパスじゃん。

 コイツさえいなければ俺と未来は今頃、仲良く一緒に暮らしていたはずなのに。込み上げてくる怒りをどうにか抑え、俺は言う。

「…あのさ、もう全部知っちゃったんだ」
「えーっ、何のこと?」

「ごめん、ほんともう無理、気持ち悪い。俺がデジタルコンテンツ部に行きたい一心で、未来を騙したんだって?俺が未来を好きでも何でも無いって…そう言ったんだってな?」
「なっ、し、知らないよ、そんな話」

 あーそうか、やっぱりそういう反応か。

「汚いなあ、本当に汚い。俺さあ、そういう嘘吐くヤツって大嫌いなんだ。お前んちに置いてある俺の物は全部捨ててくれ。ほんと顔も見たくないし絶対にもう会わないぞ。これで連絡しないから、そっちもしてくんなよ」
「ま、待ってッ。龍…」

 この期に及んで、紗希はこう言った。

「騙されてるのよ、アナタ。全部、秋山さんの作り話なのッ!!ほら、あの人って誰からも相手にされないから、過去の栄光じゃないけど龍という存在に縋って、私から奪い返そうとか思…」
「また嘘か。お前、本当に腐った女だなあ。未来が誰にも相手にされないって?バカなことを言うなよ。アイツ、今日の飲み会でモテまくってたぞ。電広堂のイケメン王子と富樫副社長とで奪い合ってたっつうの!!」

 余程ビックリしたのだろう。次の言葉を失った紗希に俺は続ける。

「未来はな、最高にイイ女なんだよ。お前とは似ても似つかない…そう、外見だけ磨いても中身カラッポのお前とはな。くっそ!お前さえいなければアイツは俺のモノだったのに、お前なんかに騙されなければ…。本当にムカつく!二度と俺に顔を見せるなよッ」

 怒りに任せて電話を切り、それから再び駅のホームで項垂れた。…うん、分かってる。紗希も悪いけど俺も悪い。プライドが邪魔をして、離れて行った理由を未来に訊こうとしなかったから。時間が戻せるものならあの頃に戻りたい。そして毎日彼女に好きだと伝えて、もし少しでも離れようとしたら追い掛けるんだ。

 …そう、あの頃に戻れたなら。
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

憧れの小説作家は取引先のマネージャーだった

七転び八起き
恋愛
ある夜、傷心の主人公・神谷美鈴がバーで出会った男は、どこか憧れの小説家"翠川雅人"に面影が似ている人だった。 その男と一夜の関係を結んだが、彼は取引先のマネージャーの橘で、憧れの小説家の翠川雅人だと知り、美鈴も本格的に小説家になろうとする。 恋と創作で揺れ動く二人が行き着いた先にあるものは──

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

求婚されても困ります!~One Night Mistake~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「責任は取る。僕と結婚しよう」 隣にイケメンが引っ越してきたと思ったら、新しく赴任してきた課長だった。 歓迎会で女性陣にお酒を飲まされ、彼は撃沈。 お隣さんの私が送っていくことになったんだけど。 鍵を出してくれないもんだから仕方なく家にあげたらば。 ……唇を奪われた。 さらにその先も彼は迫ろうとしたものの、あえなく寝落ち。 翌朝、大混乱の課長は誤解していると気づいたものの、昨晩、あれだけ迷惑かけられたのでちょーっとからかってやろうと思ったのが間違いだった。 あろうことか課長は、私に求婚してきたのだ! 香坂麻里恵(26) 内装業SUNH(株)福岡支社第一営業部営業 サバサバした性格で、若干の世話焼き。 女性らしく、が超苦手。 女子社員のグループよりもおじさん社員の方が話があう。 恋愛?しなくていいんじゃない?の、人。 グッズ収集癖ははない、オタク。 × 楠木侑(28) 内装業SUNH(株)福岡支社第一営業部課長 イケメン、エリート。 あからさまにアプローチをかける女性には塩対応。 仕事に厳しくてあまり笑わない。 実は酔うとキス魔? web小説を読み、アニメ化作品をチェックする、ライトオタク。 人の話をまったく聞かない課長に、いつになったら真実を告げられるのか!?

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

処理中です...