恋に、焦がれる

ももくり

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ラプス

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 私にだって警戒心は有る。

 だからいつでも選んでいたつもりだ──自分を傷つける人間か、そうじゃないかを。カズは私の暗黒時代を知っているし、それなりに不幸を味わった人間をこれ以上痛めつけることは無いだろうと考えた。それにその昔、何かの本で読んだのだ。一生のうちに与えられる不幸の量は皆んな同等で、軽いものを何度かに分けて与えられる人と、重いものを一気に与えられる人とで差が有るように見えるだけなのだと。

 …中学に入ってすぐ父と2人暮らしになり、大学進学と同時に兄と2人暮らしを始めた私にとって男性とのツーショットは抵抗が無く、しかも壮ちゃんという存在が誤った考えを植え付けたのかもしれない。彼は他の女性に対して鬼畜の所業を繰り返したが、私に対しては誠実そのものだった。だからあの狭いワンルームで2人きりになっても平気だったし、私は自分が女としての色気を備えていないと思い込んだのである。

「その気が無いはずないよな、だってここまで来たんだし」

 カズの言葉でようやく自分の浅はかさに気付いた。無いよ、無かったよ、ただ、好奇心で入ってみただけ。だってカズが言ったんだよ?今どきのラブホテルはカラオケも有るし、料理も美味しいからって。だってまさか私を性的対象として見てるだなんて思ってもみなかったし、それよりもアンタどんだけ守備範囲広いのよ。

 初めて入ったその場所は、日曜の昼間だというのにほぼ満室状態で。最後の1室に滑り込みセーフでチェックイン出来たのはやはりそういう運命だったのかもしれない。瞬時に頑張って考えたが、受け入れるにしても断るにしてもどれも決定的な理由は無く、むしろまるで他人事みたいに『どっちでもいいや』という答えに辿り着いてしまう。

 嫌いじゃないが、熱烈に好きかと問われるとそうでも無い。ただ、客観的に見ると条件は良かった。身元はシッカリしているし、友達からのウケも良い。一緒にいても疲れないし、何よりも優しい。

 きっとこの人なら兄も喜んでくれるだろう。

 今まで恋をしたことが無かったのだから、これ以降だって出来るか分からない。こんなポンコツの私を相手にしてくれるなんて、寧ろ感謝すべきだ。ようやく前に進むことを決心すると、それを察知したのかカズは口角を上げてゆっくりと顔を近づけてくる。

「もしかして、初めて?大丈夫、俺に任せて」

 壮ちゃんの有り難いご教授のお陰で手順はだいたい把握していたが、やはり実地となると想像を超えた世界が待っていた。なぜ耳を舐めるのか?いや、でもこれが意外と気持ちいい。キスは予想通り舌が入ってきて、ぬめぬめとした感触が擽ったい。もう限界と思ったところでカズの関心は胸へと移った。

「はは、もう明恵の乳首、ビンビン」

 これが噂の言葉責めだろうか、だとすれば作戦成功と褒めるべきだろう。自分でも興奮しているのが分かるから。普段、ブラジャーで目立たぬ様にと押さえつけられている乳首が、カズの爪でカリカリと尖るように仕向けられ、ようやく尖ったソレは彼の舌で激しく転がされた。

 なんとか厭らしい声が漏れないようにと両手で口を塞ぎ続ける。そんな私を見てカズは楽しそうに笑いながら最後の砦である下着を脱がせ、蜜口の匂いを嗅ぐ。

「ふふっ、処女の香りがする」

 カアッと羞恥で頬が熱くなり、カズの吐息を肌で感じてトロリと愛液が零れた。その液をそっと指で撫で広げながらゆっくりと指が入れられ、何かを探っていたかと思うとその一点に触れた途端、激しい快感に襲われる。

「うん、分かった、ここだ」

 そう呟いたかと思うとカズは、トランクス越しに膨らんだ部分を触るようにと私に懇願してきた。

「ああ、いい、そんな感じ、上手だよ。じゃあもうトランクスも脱ぐからさ、直に触ってよ」

 私に拒否権は無いと言わんばかりに強引にソレを握らされ、指示どおりに手を動かす。

「はァ、もういいかな。最初だけ痛いけど我慢して。次からは気持ち良くなるからさ」
「う、あああっ」

 両手で口元を抑えていたのに、それでも尚、室内に響く私の呻き声。

「ごめん、痛いよね?可哀想に、明恵、もうちょっと頑張れる?」
「ん、んん、ん~っ」

 声は優しいのにカズの腰は非情にも激しく動き出し、痛みで腰を引こうとするのに尻を鷲掴みにされ、逆にもっと奥へと侵入してくる。痛みはもう麻痺してきて、徐々に快感らしきものが分かってきた。

「明恵、気持ちイイ…、きゅうきゅう締め付けてくる、凄い、最高…」
「あ、やあああっ、ん、ううっ」

 一瞬だけ屹立が抜かれたかと思うと、再び深く貫かれ、それと同時にカズは動かなくなった。どうやらこれが『イク』という状態だと理解し、私はようやくその儀式から解放されたのである。

 
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