ヴェロニカの結婚

ももくり

文字の大きさ
49 / 54

最善の策

しおりを挟む
 
 
 暫くの間、アンドリューと私が生存していることは伏せられていたのだが、いつの間にか城下に漏れてしまった。どうやらダンとジェレミーお兄様の厨房でのやり取りが盗み聞きされ、その話に尾鰭が付いて『奇跡の生還』として話題になっているらしい。
 
「ったく、口止めしておいたんだがなあ」
「落ち着けよレイモンド、話を元に戻せ」

 すまない、と謝りながらレイモンドは向き直る。

「大きな声では言えないけど、今、我がガルツィ王国では内戦が起きているんだ」
「えっ、レイモンドはここにいて大丈夫なの?」

 すぐに頷かれ、再びケヴィンがレイモンドに代わって説明を始める。

 アデラ王女を傀儡とした将軍派と、
 レイモンドを祀り上げた宰相派。

 当初、優勢だった将軍派は武力だけを頼みとしたことが仇となったのか、先行きの見えない展開に離脱者が出始め徐々に弱体化。現在は、ごく一部の貴族が残っているのみなのだと。

 逆に緻密な計画を練っていた宰相派は、着実にその信頼を得ていく。まずは実験的に寂れた地域を活性化したことでその手腕を認めさせ、『武力は確かに必要だが、もうそれだけで生き残れる時代でも無くなった。今後は国内の自給率も上げていこうではないか!』と精力的に説いて回ったのだ。

 そうなると、レイモンドが狙われ出す。度重なる暗殺未遂に業を煮やした宰相は、とうとう内戦を起こす決意を固めた。机上での模擬実験を繰り返した結果、国内よりもむしろ国外の方が安全だと判断し、次期国王となるレイモンドを彼の故郷でもあるデュアマルク王国に委ねたのである。

 しかし、デュアマルク王国の軍隊はその大半が内戦の応援に向かっている為、これ以上レイモンドの警護に人員を割けない。幸いなことに軍神と呼ばれるほどの実力を持つケヴィン・ローランドが専属護衛となっているので、彼を含む数名の騎士で守り抜いて貰おう…という話で纏まったそうだ。

「とまあ、長くなってしまったけど、要するにこの王城には今、影の組織と対抗出来るほどの騎士がいないんだよ。いや、いるにはいるが、それはもともと王族や主要人物を警護してるからな。幾ら能力持ちのキッシンジャー家の令嬢だろうと、公爵家の子息だろうと、数少ない有能な騎士を引っ張って来ることは正直難しい」
「そ…れは、まあ、…そうでしょうね」

 なんということだろうか。せっかく助かったと言うのに、また命を狙われてしまうのか。項垂れる私の背中を、ケヴィンは優しく擦る。

「まあ、落ち込むな。それでレイモンドと相談したんだがな、一応、レイモンドにも影の組織と似て非なる隠れた護衛が二人、付いているんだ。それと、大っぴらに護衛している俺が一人で計三人な」
「へえ、そうなの」

 最早ケヴィンの言葉が耳を素通りする。どうすれば助かるのか?いや、どうすればアンドリューを守れるのか?そのことで頭が一杯だ。すると軽く咳払いしたレイモンドがケヴィンに代わって口を開く。

「というワケでな、どうせ一晩のことだし、俺がこの部屋に泊まるよ」
「な、なに言ってるの?!」

「だって、アンドリューは俺と間違われたせいでこんな目に遭ったんだぞ。ケヴィンはアンドリューの兄だし、勿論、俺はヴェロニカのことも助けたい。そう考えれば、これが最善の策だと思わないか?」
「それは有り難いけど、でも、ダメよ!」

「いや、もう決めたんだ。隠れて警護してくれている者達…通称カラスと言うんだがな、彼等にもそう伝えてあるから、一晩、よろしく」
「えっ、そんな…」
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

処理中です...