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美香編
思いがけない再会
しおりを挟む※ここからは美香視点です。
…………
「あははっ、好きでも無い男の唾液を飲まされたの~?悲惨~そんならまだアレの方がマシ~」
「ちょッ、声が大きいよ!」
目の前にいる林浩美とは、高校からの付き合いだ。その特徴をひとことで言うととにかく顔が派手。それはどちらかというと中東系の濃い感じの派手さなのだが、外見同様にその中身も一筋縄ではいかない女なのだ。
性に奔放…というか、
めちゃくちゃエロい。
とにかくそっち方面の知識が凄すぎて、箱入り娘の自覚を持つ私にとってその存在は最早テロ状態。順調に知識を増やしている私だが、何故そこまで貪欲にエロ情報を得ようとしているのか?
それはカタブツ同士で結婚した先輩夫婦が、自分の子供に天我と名付けたことが発端だ。赤ちゃんの名前を聞いて微妙な表情を浮かべた浩美から、その理由を教えて貰った私はシミジミ実感したのである。
無知は罪であると。
エロ分野を侮るなかれと。
陰で笑われる人間にならないためにも、エロ情報は定期的に入手しなければならぬのだ。…そんな浩美と平日の夜だというのに居酒屋の個室で会っているのは、ショッキングな事件に遭い、浩美でなければ相談出来ないと思ったからで。
その事件とは昨晩、妹の同僚と2人で飲むことになったのだが、いつもの『イヤな女モード』で接していたにも拘らず数時間で陥落してしまい、アッという間に相手が豹変。
突然キスをされ、しかも唾液まで飲まされるという異常事態へと突入。思い起こすたび、あの屈辱的な行為に身震いする。そのムカムカがどうにも自浄出来ず、仕方なくこうして吐き出そうと考えたワケなのだが。
「おえ…」
「あはは、可哀想な美香。好きな男のでも抵抗有るのにどうでもいい男のだともっと辛いよね。ところでその男、どんな感じ?」
どんな感じって…。
顔はまあ、合格点だったと思う。
でも私はメンクイじゃないから。
むしろブ男の方が好きだから。
でもキスだけなら上手だったなあ。って、私ったら何を血迷っているのか。慌てて目の前にあるマンゴーサワーを一気飲みする。
ああ、そうさ。
私はマンゴーサワーが大好きだ。
だって甘くて酸っぱくて初恋みたいな味がするんだもの。うふっ。香奈に薦めたのもこの私!いつでもどこでもマンゴーサワー!でも、身内以外の前では決して飲まないと決めている。何故ならこの外見でそんなものを好きだと知られたら、絶対に好かれてしまうからだ。
そう、油断すると惚れられてしまう。
自意識過剰と言いますがね、多くの実績が有るんですよ!だから敢えて自己防衛のために私は『好かれない』ようにするんですッ。
ストレス発散とばかりに喋りまくって帰宅する。その途中で自宅近くのコンビニに入ると、雑誌コーナーにいた若い男性がこちらに近づいて来た。
「良かった、妹さんから美香さんが毎日このコンビニに寄ると聞いていたんですよ」
「げっ」
「待ってください、どうしても謝りたくて。少しで構いません、どうか俺の話をッ」
「ぐっ」
条件反射で口元を両手で隠してしまう。
そう、目の前にいたのは、唾飲ませ男こと
望月遼太郎だったのである。
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