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美香編
望月の失態(望月視点)
しおりを挟む「なんか私、結婚しないといけないみたい」
「はあ、そうなんですか」
マンゴーサワーを数口飲んだことを皮切りに、ビール3杯を飲み干し、まだ足りないと焼酎や日本酒にまで手を出したというのに美香さんはまったく酔う気配を見せない。
ここまでくるとアレだ。アルコールが効かない体質なんだろうから、いっそ単価の安いソフトドリンクを飲んだ方が得だとすら思えてきた。そんなことを考えながら、軽く受け流したその言葉をもう一度脳内で反芻する。
『結婚しないといけないみたい』…って、け、結婚?!慌てて訊き直そうとしたが、その前に美香さんの方から詳細を説明してくれるらしい。
「ウチね、3姉妹なのね、で、父がね、上から順番に結婚しないとダメだって。職場にウチと同じ3姉妹の長女って人がいて、妹2人は結婚しているのにその人だけ独身のまま50歳になったんだって。でね、順番にしておけば妹たちのためにと焦って結婚するだろうから、ウチもそうするって言うんだよ~」
あ、その『言うんだよ~』、カワイイ…。
残念ながら俺はかなり酔っていた。美香さんのペースに合わせるのは無理だとしても自分なりに頑張って飲もうとしたのである。
その結果、許容範囲を超えてしまい。頭の中にボンヤリと白い靄が掛かって、いつしか目の前に座っているその女性が自分の彼女だと錯覚し、無意識のうちに正面の席から移動して美香さんの隣りに腰を下ろしていた。
「え?ああ、ごめん私、声が大きかったかな?周囲に聞かせる内容じゃないと思ってわざわざ近くに座り直してくれたんだよね。優しいなあ」
いいさ、俺たち付き合ってるんだし。
「結婚相手とかスグに見つけられないよね」
ふわりとその長い髪が揺れて俺の頬をスルリと撫でた。たったそれだけのことで妙に興奮する。
ヤバイ、めっちゃ可愛い。
なるほど、この人が笑ったり優しい言葉を掛けたらきっとそれだけで皆んな恋に落ちてしまう。そっか、キツイ口調も仏頂面も全部コレを隠すためのフェイクだったんだな?
「って、お前は最終兵器かッ」
「へ?あの、望月くん??何を急に…」
ヒソヒソ話が出来る距離にいた俺は更に近づく。
「いいよね?」
「えっと、それはどういう意味?」
『キスしても、いいよね?』と言ったんだよ。あはは、照れちゃって~、こいつゥ。こちとら実践を重ねてるんだからな!スマートにお前の唇を奪っちゃうゾ。
両肩ガシッ、顎クイッ、唇ムッチュ~ッ。
ちょっと休憩。
「ん、も、望月くん?酔ってるの??」
「酔ってない」
嘘、嘘、酔ってまーす。
再び、右手で肩ガシッ、左手で顎クイッ、
舌ガーッって突っ込んで、唾液ダーッ。
「ん、んんんーっ」
「お願いだ、俺の唾液を飲んで」
はい、認めます。
昨日、そっち系の動画を観てましたッ。
案の定、涙目になった彼女は
逃げるように店を出て行った…。
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