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美香編
プロポーズ!
しおりを挟む「けッ、結婚?!」
「んまあああああああっ、美香どうして早く言わなかったのッ?!」
その後も『んまあんまあ』としか言わない母に背を向けて、私は玄関先で望月を問い詰める。
「いつの間にそんな話になったの?!」
「うわあ…」
明らかに望月の顔は呆れている。
「だってっ、記憶に無いよ、私ッ」
「俺、モツ鍋屋で『美香さんを余裕で養える』と言いましたよね?あれ、一応プロポーズです」
「アレってそういう意味だったの?!」
「鈍い、鈍すぎますよ。それにホテルでも確認してるんですけど。ほら、コンドームが足りなくて3回目を諦めようとしたら、トランス状態になった美香さんが俺の腰に両脚を絡みつけて離さなかったでしょ?」
おいこら望月!母親がスグ傍にいるのに何たる下世話な話をするんだッ?!
「お、覚えてない…」
「ええっ?それで俺が『妊娠しちゃってもイイんですか?』って訊いたら『望月の赤ちゃんが欲しい』と即答しましたよ。で、『じゃあ俺と結婚しますか?』という問いにも『うん!』と。やだなあ、あんなにハキハキ答えておいて全部覚えてないとか、いったいどんなプレイなんだ。本日ご両親に挨拶する件だって、何度も念押ししましたし!その度に美香さん『分かったって』と少し鬱陶しそうにしていたので、敢えて前日に電話しなかったのにな。うわ、失敗した…」
もしやコレ、全部私が悪いの??反省もそこそこに、とにかく両親に事情を説明しなければと焦る私。
「お母さんゴメン!私が伝え忘れてしまったの。わざわざ結婚の申し込みに来てくださったけど、このまま客間にお通ししても良いかしら?」
取り敢えず上品な家であることを強調したくて、母との会話も気取った言い回しにしたのに。
「ダメ!5…ううん、20分待ってっ!!」
「えっ?そんなに?」
「だって、お父さん今、ステテテテコ姿だしッ。早くまともな格好をさせないと!」
「えと…うん、分かった…」
お母さん、動揺し過ぎて『テ』が多いし。望月、メッチャ笑いを堪えてるし。
「餅つきさん!ごめんなさいね少しだけ待っていただけるかしら」
「あ、はい。どうぞお気になさらず」
餅つきって誰やねん。望月だっつうの!!
仕方なく先に客間でちんまりと座って待つ我ら。遠くでは『違うッ、袖から首出してるッ』とか『うわっ、せめてこの寝グセを直させろ』などの阿鼻叫喚が聞こえたが、…そんなことよりも。
「ねえ、望月。私でいいの?」
「いいも何も、先に好きになったのは俺なんで。そこから、どうやって手に入れようかと計画を練りに練って頑張ったんですよ。…美香さんはちっとも気付いてなかったようですけど」
「だって、私のことは好きじゃないと…」
「バカだな、そんなの信じないでください」
「でも、お見合い相手まで探して来るし」
「アイツらに会わせる気なんてサラサラ無くて、とにかく俺のことを知って貰おうと必死だったんです。…ねえ、美香さん」
望月が一瞬だけ真顔になる。
「はい」
「改めて言わせてください。俺と結婚してくれませんか?」
「私で良ければ、喜んで」
「ははっ、朝日美香から望月美香になるのか…。まるで朝から夜へ鞍替えしたみたいですね」
その言葉に、私も思わずフフッと笑った。
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