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美香編
マジ勘弁ッ
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そんなもん、楽勝でしたよ~。
だって望月はサラブレッドですから!
高学歴で家柄も文句なく、仕事だって香奈が『出世間違いなし』と太鼓判を押したほどだし、それに何と言っても人気者の生徒会長みたいな外見を母が異常に気に入ってしまったのである。
>こんな息子が欲しかったの。
>長年の夢が叶うわ、有難う餅つきさん!
…望月だし。
コホン、えっと、とにかくそう簡単に大団円とはいかせて貰えないようで。私は今、職場での飲み会の最中だというのに迫られている。勿論、相手は愛しの望月では無い。
「ちょっ、そういう冗談はヤメてくださいって。本当に怒りますよッ!!」
「は?!冗談じゃねえし」
『そうだ、トイレに行こう!』と思い立ち、化粧直しなんかしない私は手ぶらでソコに向かったのだが。料理はシンプルなのに建物は著名な建築家が手掛けたとかいうこの店は、ロッジみたいな素朴さを醸し出しながら意図的に分り難い造りになっており。漸くトイレに辿り着いたと思った途端、先回りしていたその人に行く手を阻まれたのである。
どうやらトイレは中2階に有り、宴会場のある3階から直通で来れたらしい。それを知らなかった私は無駄に遠回りしてしまったようだ。勿論、周囲には誰もいなくて。目の前のその人はこれ見よがしに整った顔を近づけ、壁と自分の腕とで私を囲い込む。
柴崎 晄一29歳。
私の先輩でどちらかと言うと犬猿の仲だ。
たぶん性格が似ているからだろうか。自己中で我が強くて偏屈…って随分な自己評価だな、私。とにかくこの人は良くも悪くも典型的な『俺様』なのだが、営業成績が素晴らしいことと、その恐ろしいまでのイケメンっぷりで誰にも文句を言わせないのである。
同じ営業部なので仕事面ではそれなりに接点が有ったものの、プライベートでは全く相容れなかった。私の方は『イケメン嫌い』を公言していたし、柴崎さんの方も『気が強い女は苦手』と常日頃から言っていたからだ。
柴崎さんは非常に飽きっぽい性格で、付き合う相手も頻繁に変わる。こんな男に振り回されるなんて可哀想と思うことは有っても、それ以上の感情を抱くことは無かったのに。
宴席で婚約発表をしたのが間違いだったのだろうか。いや、言い訳をさせて頂くと、そうしたのは私の意志では無い。これから結婚準備に入るため残業をお断りする場合も有りますよと課長に報告したのが失敗の要因だ。酔った課長はスピーカーの如く私の婚約を面白可笑しく広め出したのである。
「あはは、この朝日が!この朝日がだぞ?!しおらしく『結婚することになりました』とか報告して来た時にゃあ、度肝を抜かれたぞ!!朝日おめでとう!あまり旦那さんを虐めるなよ」
いや、マジ勘弁ッ。
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