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荒木田編
美香さんに見破られるの巻
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「最近の荒木田、ハキハキ喋って凄くイイ感じじゃない?いったいどうしたのよ~」
「い、いえ、特に何でも無いですッ」
ウチは社内恋愛禁止では無く、むしろ推奨しているらしいのだが、それでも隣席の男性社員との交際をオープンにするのは得策とは言えないだろう…と思ったのに。
美香さんは目を三日月にして微笑む。
「滝さんとのことを教えなさい」
「おっ、仰る意味が分からないのですが」
正に蛇に睨まれた蛙状態になった私は、社食の片隅で薄い番茶を一気飲みする。
「尻の形で分かるのよ。女はね、ヤリまくると尻がドッシリしてくるの。これはエロの申し子と呼ばれた悪友・林浩美御大が提唱してる判断方法なのね。特に荒木田みたいな体型のコは、性生活が活発になると相手のモノを受け入れ易いようにと急激にお尻が四角くなってくるワケ。私と浩美はこの観察眼で数多くの女たちの変化を見抜き、エロ話を訊き出したんだから、もうここまで来たら観念して喋るのよッ」
「うわあ…、昼間っからゲスいですぅ」
どうして相手が滝さんだと分かったのですか?と訊ね返したところ、美香さんはふんぞり返ってこう答えた。
「恋する2人特有のラブビームを出しまくっているんだもの。たぶんウチの部署では部長以外の全員が知ってると思うわよ。でもまあ、仕事に支障は無いし、温かく見守ろうという話になってるからね。
それどころか滝さんを選ぶなんて荒木田は男を見る目が有るって、皆んな応援モードに突入よ。あのお局…じゃなかった、山村さんもお気に入りの柴崎さんじゃなく、滝さんを選んだってことでイジメリストから荒木田を除外したそうよ。とにかく何もかも滝さんの人徳のお陰ね。後は別れないよう頑張って。オフィスラブって破局すると地獄だもの」
『縁起でも無い!』と抗議すると、美香さんはカラカラ笑いながら私の背を叩く。
「いい恋をしてる人って、見た目で分かるし。そういう人の幸せな話を聞くの、大好き!なんかさ、自分が不幸だとそのテの話って、近寄ろうともしないと思わない?」
「確かにそうですね」
「でも、私は平気で訊けちゃう。それはつまり、私もめちゃくちゃハッピーってことじゃないかしら?」
「ぷっ、確かにとても幸せそうです」
目どころか口まで三日月の形にして、美香さんは夢見るようにして続ける。
「幸せな人の周りには、幸せな人が集まるのよ。これって凄くない?『幸せな人』ってさ、そうじゃない人からすれば猛毒だもん。私は今までそうじゃないい側だったから近寄れなかったの。ところが今は…むふっ、とうとう仲間入りよ!少しぐらい堪能してもイイじゃないの、ねえ?」
その言い方があまりにも可愛くて、思わず私も笑ってしまう。そっか、幸せ側の人間に私も今なっているんだな。そう思うと自然に頬が綻ぶ。
「ちな…、荒木田さん」
「あ、はい、どうしましたか、滝さん」
なんて言葉を交わしながら、そのまま彼は私の隣りに座った。
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