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荒木田編
幸せの輪の中へ
しおりを挟む「えっと、後で話すからいいや」
「分かりました。じゃあ、後で」
きっとまた今晩ウチに泊まりに行くよという話だろう。バレていることを知らないので澄まし顔を続ける滝さんに、美香さんが笑い掛ける。
「滝さん、荒木田が毎晩はちょっとシンドイと言ってましたよ」
「んッ、ぶ、ぐッ」
「み、美香さん?!私そんなこと言ってないし、ああ、ほらもう、滝さんが驚いて味噌汁を零しちゃったじゃないですかッ!」
困り顔のダーリンも可愛いと思ってしまうのは彼女としての欲目だろうか。
「えっ?朝日さん、俺らのこと知ってる?」
「滝さん、あの…美香さんだけじゃなくて、部長以外の全員が知ってるらしいです」
ああ…と天を仰いだ彼は暫くして微笑んだ。どうやら何かが吹っ切れたらしい。
「うん、でもいいか。これで千波を狙う男共に牽制出来ると思えば。俺らの仲をオープンにしておけば、結婚した後も働き易いだろうしな」
け、けっこん…。
驚いたけど、そこんとこは深く触れないことにしてみる。だって私はまだ若くて、でも滝さんはもうそれなりの年齢で、だからって焦ってもロクなことは無いと思うからだ。
「じっくり自分たちのペースで進みましょうね。結果は後から連いてくるものだし」
「ふふ、千波ならそう言うと思ったよ。キミは本当に可愛くて頼れる素敵な女性だ」
そんなこと言うの、アナタくらいだよ。
皆んなが私を弄り易い玩具みたいな扱いをするのに、アナタだけは私をまるで一流のレディのようにして扱ってくれるんだから。
うん、そういうところも好きだなあ。
「でも、今から予約しておいていいかな?いつか結婚を考えるなら、真っ先に俺を思い浮かべて欲しいんだ」
「そんなの当たり前でしょ?私、滝さん以外の男性とどうにかなる気がしないので」
この会話を聞いていた美香さんがニヨニヨと笑う。
「まだ付き合って日が浅いものね~。って私もそう言いながら押されまくって婚約しちゃったけど。でもまあ時には勢いも必要じゃないかな。経理の佐藤さんが言うにはあちらの部署で1人の結婚決まったら、それ以降ダダダッと3人続けて婚約が決まったらしくて。佐藤さん、笑いながら『コトブキン(寿菌)に感染した』とか言ってたけど、ウチでも広がるとイイなあ」
幸せな人の周りには、
幸せな人が集まる。
いつまでもその輪の中にいられるようにと心の中でそっと祈りながら、私は隣りに座っている愛しい人の手をこっそり撫でた。
--END--
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※本日、同時に『朝日家の三姉妹<3>~奈月の場合~』を公開しております。朝日三姉妹の末っ子のお話となりますので、宜しければ覗いてみてくださいませ。
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