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余計なお世話なんですけど
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「えっと、それは困ったなァ」
「前田さん、お願いです!私を助けると思ってッ」
さて、経緯を説明しよう。
本日のランチタイムで私は、廣瀬さんと噂のあった営業部の村瀬さんが、同じ営業部の吉良さんと付き合い出したという報を受けたのだ。
ほほう、では廣瀬さんはまた振られたんだな…と思い、ではもう一回迫ってみましょうかと重い腰を上げてお得意の待ち伏せ作戦を実行しようとしたのだが。
スケジュールボードで確認してみると、相変わらずハードワークな廣瀬さんの帰社予定は夜9時頃となっており。それじゃあ軽く小腹を満たしてから、忘れ物をしたテイで職場に戻ろうと考え、会社近くのコーヒースタンドでアイスコーヒーを飲みつつスマホでネットニュースなんかを読んでいたところ、着信音と共にメッセージが届いたのである。
>朱里ちゃん、今どこ?
送信元は大学時代からの友人で、天然女子の佐古ちゃんだ。『一緒に食事でもしませんか』というお誘いかもしれないと勝手に推測し、こちらは廣瀬さんと食事するつもりなので、さり気なく断りのメッセージを送る。
>まだ会社。たぶん9時過ぎまで帰れない。
可愛いネコのスタンプで『了解しました』と返って来たので、そのまま放置していたところ、その2時間後に今度は電話が掛かってきた。
「ごめん朱里ちゃん、先に謝っておくね」
「えっ、なに?」
嫌な予感しかしないが、それでも辛抱強く話を聞いてみれば、驚きの展開。
実は米沢さんはこの佐古ちゃんからの紹介で、2人は部署は違うものの勤務先が同じなのだ。で、本日たまたま米沢さんと顔を合わせた佐古ちゃんが、彼に向って私との仲が順調かと訊ねたところ『相談がある』と言われて一緒に飲んだのだと。
そこで湊と鉢合わせしたことを報告され、『あの男はどんなヤツなのか?』と問い詰められたので正直に答えてしまった…までは良いのだが。
「でさ、米沢さんが今そっちに向かってるの」
「は?!」
「そんな最低な男に報われない恋をするくらいなら、自分が幸せにしてみせると」
「ええっ」
余計なお世話なんですけど。
っていうか、今から来られても迷惑だしッ。
「私からも言っておく。朱里、もう湊さんのことは諦めて米沢さんにしちゃいな」
「いや、でも、米沢さんは湊の件を抜きにしてもそういう付き合いは無理って言うか。だって、凄くイイ人だけどオスとしての魅力が有るかと言うと、皆無でしょ?」
「まあ、うん、確かに」
「米沢さんと恋愛は出来ないことに気付いてしまったんだよ、アハハ」
なんかもう、笑うしか無いではないか。
そのあと佐古ちゃんからの電話を終え、仕方なく廣瀬さんを待ち伏せするのを諦めて早く帰ろうとコーヒースタンドを出たところで誰かに肩を掴まれてしまった。恐る恐る振り返ると、勿論そこに居たのは米沢さんで。
「良かった、朱里ちゃんに話が有るんだ」
「話…ですか…」
ハアハア息切れしているその姿を眺めながら、このまま走って逃げることも考えたが、そんなことをすればまた日を改めて待ち伏せさせるだけだと思い直し、私は再び店内へと戻ってその言い分を聞くことにする。
前半、ひたすら湊を罵倒。
後半、ひたすら自己アピール。
「あの…、湊のことは既に諦めているんですけど、それでも貴方と付き合う気にはなれないんですよ。米沢さんは彼氏というより…お兄さんみたいで、どうしても恋愛感情を抱けないと言うか…えっと、本当にごめんなさい」
「あー、いいよ、それで。じゃあ、お兄さんから始めよう!」
は?
「お兄さんは…お兄さんですよ?」
「うん、最近お兄ちゃんダイスキな妹の話とか流行ってるよね」
いったいどんな話だよ。
「お兄ちゃんでも一緒にデートしたり食事したりして、仲良く出来るから」
「そ、そういうんじゃなくて…」
「大丈夫、焦らずゆっくりと関係を深めていこう」
「……」
なんだろう?すごく気持ち悪い。
下心たっぷりな男が、自分のことを『お兄ちゃん』と呼ばせて虎視眈々と襲う機会を狙ってるみたいな。そんで、『関係を深める』という言葉のチョイスがもう生理的に受け付けない。ああ、もう無理だ。どうにかしてコレを断らなければ。
「黙ってましたけど実は私、ずっと職場の先輩から『付き合おう』と迫られていまして。それで今日、OKしてしまったんです!」
さすがにこんな説明で納得するはずも無く、当然のように米沢さんは『相手を見せろ』と言ってくる。厄介ごとを明日に持ち越したくなかったので、取り敢えず一旦会社に戻ってその辺にいた同僚の前田さんに彼氏役を依頼していたところ、これまた同僚女子の千脇さんが外出先から戻ってきて。
「ただいま戻りましたァ」
「あ、お疲れ様…って、ち、千脇!」
残念ながらこの2人、周囲に隠れて付き合っていたことが先日発覚したばかりだ。
「お疲れ様です、千脇さん…と、あッ、廣瀬さん?!」
そんな最悪の空気のなか、真打のご登場である。
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