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廣瀬オンステージ
しおりを挟む──それからが長かった。
とってもハイソな廣瀬部屋に連れ込まれた私は、彼の恋愛観を延々と聞かされることになる。勿論、聞くだけでは許して貰えず、要所要所で意見を求められるため気を緩めることも出来ず。仕事終わりに米沢さんと一悶着終えてからの廣瀬オンステージ
んなもん、眠いに決まっている。
しかし、段々と『ランナーズハイ』ならぬ『拝聴ハイ』というか、気分が高揚し始めたせいでその言葉がダイレクトに脳へと突き刺さり、妙に染みてきた。その全てを覚えているワケでは無いが、我が人生に於いてこれほど濃い時間は初めてではないかと思えるくらいの染みっぷりである。
「話すと長いんだけど、ウチの両親は見合い結婚でね。まあ、箱入り息子と箱入り娘が行儀よく無難にまとまった…って感じかな。とにかく形式上はまったく問題無くてさ、周囲の人達は理想の夫婦だと思ってたみたいだ。
でも、一人息子の俺から見れば物凄く異常なんだよ。だって少なくとも俺が物心ついた頃から、家族の会話がほぼ無かったんだから。事務的に二言三言やり取りするだけで、雑談らしきものは一切無し。何と言うか、相手に対して関心が持てないって感じかな。だけど別れるほどの決定的な理由は無いし、世間体も悪いから取り敢えず結婚は続ける…みたいな。
これは俺の偏見なんだけどさ、恋愛下手な人って両親が不仲な場合が多くないか?結婚が怖いと知っているからこそ、それに繋がる恋愛自体を避けてしまうと言うか。
俺自身もそのクチだと思ってたんだよ。で、それを言い訳にして生きてたみたいなところが有って、じゃあ恋愛相手は自分と真逆な女性を選べばイイじゃないかという結論に至り、その昔、メチャクチャ家族仲が良い女性と付き合ってみたことがある。
それがさ、気持ち悪いくらい仲が良すぎて、片っ端から俺の誘いを断るんだよ。『土曜は父と一緒にお祖母ちゃんのお見舞いに行くの』『ごめんなさい日曜は母と買い物に行くから』って。
結局、それで会えない日が続いて破局したんだけどさ、そうなると家族仲の良し悪しと恋愛の上手いヘタは関係ないってことがここで分かるワケ。じゃあ、恋愛に必要なのはいったい何なのか?
よく考えてみると、
“付き合う”って凄いことだと思わないか?
人間って、だいたい1日の行動パターンが決まってて、彼氏彼女が出来ると相手のためにソレを崩さなきゃダメになるんだぞ。何と言うか、俺専用の時計と、相手専用の時計が有って、例えるなら海外の時差みたく進み方は同じなんだけど人それぞれ異なるというか。その中で一定の時間を切り取って相手に差し出すって案外と大変な作業なんだよ。
勿論、そんなことをすれば他の予定を削ったり、はしょったりして支障が出るし、それでも頑張って時間を作るのは余程相手に会いたく無ければ出来ない…というか、そういう相手でなければ困るんだ。ねえ、太田さん。自分のペースを崩してまで相手に合わせる理由って何だか分かるかい?」
いつもの私ならば口にしないその言葉を、
深夜の魔力でスラスラ言ってしまうのだ。
「えっと、好き…だからでしょうか?」
未だかつてない柔らかな笑みで廣瀬さんは頷く。
「…だよね」
「きっと廣瀬さんのことを好きな女性はたくさんいますよ」
「上っ面を好きになられても御免だな。俺ね、メチャクチャ愛されたいんだ」
「メチャクチャ…ですか?」
「なんか母の愛も父の愛も薄かったからね。死ぬまでに誰かに愛されまくりたい」
「…あー、なんか分かります」
「臆病で卑怯者な俺は、無闇矢鱈に愛したりしない。愛してくれそうな人にだけ心を開いて、相手のことを試しまくって、ある程度納得してからようやくこちちからも愛そうとするんだと思う」
「うわ、面倒くさ。…でも、残念ながらそれも分かります」
「何度も言うけど俺、太田さんのことをスペックとかで男を選ぶ軽い女だと誤解してたんだよ。それが見返りを求めない重い女だと分かったから、なんかちょっとアリかなって」
「アリ…ですか?」
「ねえ、その湊とかいう男みたいにいつも一緒にいたら俺のことも好きになってくれる?」
「えっと、どうですかねえ?」
「一生、愛を知らずに生きるのも寂しいんだよ。俺、こんな感じだろ?一応、恋愛方面では色々と試してみたんだけど、どれもシックリ来ないと言うか。まあ、実験だと思って気軽に俺のことを愛してみてくれよ」
「は…あ…」
なんだこの、おかしな展開。
需要と供給と言うのだろうか?…愛されまくりたい男と、愛しまくりたい女の闇深なゴールデンコンビがここに爆誕してしまったようだ。
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