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満腹状態の恋
しおりを挟む『ほら、やっぱり!』と胸を張る彩さんとは対照的に、廣瀬さんは項垂れている。
「…かわいい」
「へ?何を言ってるの」
動揺しまくる彩さんには申し訳ないが、だってっ、メッチャ可愛くない??
嫉妬していることを私には直接言えなくて、そのクセ、社長や副社長を巻き込むことは平気だし、目的を達成する為に気の強い彩さんを頑張って1時間も引き留めたりして、努力の方向が間違ってるところが本当にいじらしくて。仕事では迷いなく指示するし無駄なく動けるはずのこの人が、私に関してのみ弱気でグダグダなところが何だかもう、
「くうぅ、本当に愛おしいなあ…」
「えええッ?しっかりして、朱里ちゃん!今の話の何処に胸キュンポイントが有ったのかな?むしろ嫌いになってもおかしく無いと思うんだけどッ」
随分な言われ様なので、仕方なく胸キュンポイントを説明すると、彩さんは呆れたように呟く。
「真、素晴らしい逸材を見つけたわね。このコ、貴方が鼻毛を10本ほど飛び出させていてもきっと鼻毛ごと可愛いと褒めてくれるわよ」
「あの…、その場合はさすがに『切って欲しい』とお願いするかと…」
「いや、例えだし!本当に10本もニョッキリと出せるワケ無いでしょ?!」
「ああ、そう、そうですよね」
彩さんに返事をしながら私はテーブル上に両手を差し出す。何故なら正面から廣瀬さんがニコニコ笑顔で握手を求めてきたからだ。
「なあ彩、これでもう分かっただろ?朱里はこういうコなんだ。俺の完璧なところに惚れたんじゃなくて、ダメな部分を好きになってくれている。だから、傍にいても気を遣わないし、呼吸がラクに出来るんだと思う。…こういうところが、どんなに振り回されても手放せない最大の理由なんだろうな」
「はいはい、どうもご馳走様~」
ここで湊が盛大に溜め息を吐き、それに彩さんが素早く突っ込みを入れた。
「可哀想に湊さん、撃沈しちゃったわね」
「あー、もう、放っといてくださいよォ」
不貞腐れる湊を見詰めながら、美しいその人は悪戯っ子の様な表情を浮かべる。
「真から聞いているわ、朱里ちゃんが最初に好きになったのは貴方だったと」
「そうです。スキスキしつこかったのに、それが今では眼中に無いらしくて」
「ふふっ、恋愛って食事と同じだから」
「は?」
「空腹が満たされてしまうと、もう他の料理は食べたくなくなるでしょう?」
「それはつまり、廣瀬さんで満腹になったってことですか」
彩さんの口調はひたすら楽しそうだ。
「料理って、味や見た目は勿論、栄養バランスなんかを考慮して…まあつまり愛情も込めておかないと美味しくないわよね?ずっとお腹ペコペコのお預け状態だった朱里ちゃんに、真という食事が与えられてしまった。それもかなりの量を定期的に食べさせられれば、他に目が向かないのも当然よ。まあ、この調子で死ぬまで満腹状態にさせられるだろうから、湊さんには付け入る隙が無いかな…なんて」
「そう言うアナタはどうして廣瀬さんと別れたんですか?」
彩さんは怯みもせずに即答する。
「うーん、好みの問題かなあ」
「好みの?」
彩さんは一瞬だけ私に向かって申し訳無さそうに目を細めてから、更に続けた。
「食の好みって、合わないと致命的よね?私と真はそこからしてもう、全然違ったの。…って、これ、しつこいけど食に例えた恋愛の話だから。分かり易く言うと、お互いそんなに好きじゃなかったってこと」
「ああ…」
「でもなんか条件は良かったし、気心も知れていて、あまりにも周囲が『お似合いだ』と囃し立てるからついウッカリ付き合っちゃった。そして案の定、好きじゃないから一緒にいることが苦痛になって、その関係を解消したってだけ」
「そっか、なるほど」
そう言う彩さんが、何となく悲し気に見えたのは気のせいだったかもしれない。
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