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人のふり見て我がふり直せ
しおりを挟むやっぱりと言うか、そんな予感はしたのだ。
しかし、ギリギリでそれを否定する何か…って、そんな曖昧な表現は必要無いな。だって元カノと2人きりで会うつもりなら、どうして九瀬さんに電話して私の居場所を探し出す必要があるのか?そして悪びれもなく2人揃って私の前に立っているのか?
はっ!
確かこの人達が別れた理由って、彼女側が海外赴任することになったとかで、いつ帰れるか分からないからだったよね。もしや、その赴任が終わったのでは??だからヨリを戻そうとして邪魔になった私に早くそう宣告してあげようという話になったのかも。
「おーい、朱里?大丈夫か」
「えっ?!はっ、はい!!」
目の前で廣瀬さんの手の平がヒラヒラと振られたので、慌てて妄想の世界から戻って来る。そして彼の口からゆっくりとこれまでの経緯が語り出された。
廣瀬さんと彩さんは留学先で知り合い、そこで仲良くなったもののその時は友人のままで帰国し、数年経ってから仕事を通して再会、いつの間にか付き合うことになったのだそうだ。しかし、同族嫌悪というか余りにも似過ぎていて喧嘩が絶えなくなり、もう限界…という時に彩さんは上司から海外赴任の話を打診され、迷わず承諾したのだと。
廣瀬さんがまだ説明している最中だというのに、それを途中で彩さんが奪ってその続きを話し始める。
「バカねえ、そんな馴れ初めとか聞かせてどうすんのよ?そんなことより早く今晩の経緯を説明しなさいってば。…朱里ちゃん、あのね、私は3カ月前に任期満了してこっちへ戻って来たの。でも、もちろん真とヨリを戻すつもりなんか無くて、連絡もしなかったんだけど、実は留学先で仲良くなった人というのが他にも数人いてね。そのうちの1人が現地に彼氏が出来て、先日挙式したんだけど、こっちでもお披露目というか気軽な感じの食事会をしたいということで、私達も招待されたの」
「そうなんですか」
「でね、食事会自体は問題無かったわ。旧交も温められたし大満足で『さあ二次会へ!』という段になって要らぬお節介と言おうか…。恥ずかしながら周囲の人達が皆んな私と真が別れたことを知ってて、それでヨリを戻させるためにワザと2人だけ置いて行ったというワケ。で、『せっかくだし、一杯だけ飲んで帰ろうよ』と言ってしまった1時間前の自分を殴りたい」
「えと…、それはどうしてでしょうか?」
彩さんは遠い目をしながら私に向かってハキハキと答えてくれる。往来の真ん中で、廣瀬さんはいきなり私について熱く語り始め、『元カノと2人きりで会うなんて、朱里が誤解したらイヤだから、朱里もここに呼び出して3人で飲もう』と提案、そこから私に電話を掛けまくったのだと。でもあまりにも連絡がつかず、今晩は諦めて帰ろうよと言う彩さんを叱咤激励し、なんだか壊れたオウムみたいに『3人で飲もう』を繰り返すその姿は最早、狂喜すら滲ませていたらしい。
「多分、どうしても朱里ちゃんを私に自慢したかったんじゃないのかな?…それと、そっちの湊とかいう人に物凄く嫉妬しているんだけど、カッコ悪いから面と向かってそう言えなくて、『ほおら、俺は女と2人きりで飲んだりしないんだぞ!』という『人のふり見て我がふり直せ』作戦を、これを機にどうしても決行したかったんだろうと思う」
「えっ、そう…なんですか、廣瀬さん?」
ここで『違う』と答えるのが、大人の対応なのだろうが、普通とは一味違う私の彼氏はほんのりと頬を染め、コックリと頷いた。
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