ずっとこの恋が続きますように

ももくり

文字の大きさ
29 / 31

人のふり見て我がふり直せ

しおりを挟む
 
 
 やっぱりと言うか、そんな予感はしたのだ。

 しかし、ギリギリでそれを否定する何か…って、そんな曖昧な表現は必要無いな。だって元カノと2人きりで会うつもりなら、どうして九瀬さんに電話して私の居場所を探し出す必要があるのか?そして悪びれもなく2人揃って私の前に立っているのか?

 はっ!

 確かこの人達が別れた理由って、彼女側が海外赴任することになったとかで、いつ帰れるか分からないからだったよね。もしや、その赴任が終わったのでは??だからヨリを戻そうとして邪魔になった私に早くそう宣告してあげようという話になったのかも。

「おーい、朱里?大丈夫か」
「えっ?!はっ、はい!!」

 目の前で廣瀬さんの手の平がヒラヒラと振られたので、慌てて妄想の世界から戻って来る。そして彼の口からゆっくりとこれまでの経緯が語り出された。

 廣瀬さんと彩さんは留学先で知り合い、そこで仲良くなったもののその時は友人のままで帰国し、数年経ってから仕事を通して再会、いつの間にか付き合うことになったのだそうだ。しかし、同族嫌悪というか余りにも似過ぎていて喧嘩が絶えなくなり、もう限界…という時に彩さんは上司から海外赴任の話を打診され、迷わず承諾したのだと。

 廣瀬さんがまだ説明している最中だというのに、それを途中で彩さんが奪ってその続きを話し始める。

「バカねえ、そんな馴れ初めとか聞かせてどうすんのよ?そんなことより早く今晩の経緯を説明しなさいってば。…朱里ちゃん、あのね、私は3カ月前に任期満了してこっちへ戻って来たの。でも、もちろん真とヨリを戻すつもりなんか無くて、連絡もしなかったんだけど、実は留学先で仲良くなった人というのが他にも数人いてね。そのうちの1人が現地に彼氏が出来て、先日挙式したんだけど、こっちでもお披露目というか気軽な感じの食事会をしたいということで、私達も招待されたの」
「そうなんですか」

「でね、食事会自体は問題無かったわ。旧交も温められたし大満足で『さあ二次会へ!』という段になって要らぬお節介と言おうか…。恥ずかしながら周囲の人達が皆んな私と真が別れたことを知ってて、それでヨリを戻させるためにワザと2人だけ置いて行ったというワケ。で、『せっかくだし、一杯だけ飲んで帰ろうよ』と言ってしまった1時間前の自分を殴りたい」
「えと…、それはどうしてでしょうか?」

 彩さんは遠い目をしながら私に向かってハキハキと答えてくれる。往来の真ん中で、廣瀬さんはいきなり私について熱く語り始め、『元カノと2人きりで会うなんて、朱里が誤解したらイヤだから、朱里もここに呼び出して3人で飲もう』と提案、そこから私に電話を掛けまくったのだと。でもあまりにも連絡がつかず、今晩は諦めて帰ろうよと言う彩さんを叱咤激励し、なんだか壊れたオウムみたいに『3人で飲もう』を繰り返すその姿は最早、狂喜すら滲ませていたらしい。

「多分、どうしても朱里ちゃんを私に自慢したかったんじゃないのかな?…それと、そっちの湊とかいう人に物凄く嫉妬しているんだけど、カッコ悪いから面と向かってそう言えなくて、『ほおら、俺は女と2人きりで飲んだりしないんだぞ!』という『人のふり見て我がふり直せ』作戦を、これを機にどうしても決行したかったんだろうと思う」
「えっ、そう…なんですか、廣瀬さん?」

 ここで『違う』と答えるのが、大人の対応なのだろうが、普通とは一味違う私の彼氏はほんのりと頬を染め、コックリと頷いた。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生令嬢と王子の恋人

ねーさん
恋愛
 ある朝、目覚めたら、侯爵令嬢になっていた件  って、どこのラノベのタイトルなの!?  第二王子の婚約者であるリザは、ある日突然自分の前世が17歳で亡くなった日本人「リサコ」である事を思い出す。  麗しい王太子に端整な第二王子。ここはラノベ?乙女ゲーム?  もしかして、第二王子の婚約者である私は「悪役令嬢」なんでしょうか!?

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

空蝉

杉山 実
恋愛
落合麻結は29歳に成った。 高校生の時に愛した大学生坂上伸一が忘れれない。 突然、バイクの事故で麻結の前から姿を消した。 12年経過した今年も命日に、伊豆の堂ヶ島付近の事故現場に佇んでいた。 父は地銀の支店長で、娘がいつまでも過去を引きずっているのが心配の種だった。 美しい娘に色々な人からの誘い、紹介等が跡を絶たない程。 行き交う人が振り返る程綺麗な我が子が、30歳を前にしても中々恋愛もしなければ、結婚話に耳を傾けない。 そんな麻結を巡る恋愛を綴る物語の始まりです。 空蝉とは蝉の抜け殻の事、、、、麻結の思いは、、、、

課長のケーキは甘い包囲網

花里 美佐
恋愛
田崎すみれ 二十二歳 料亭の娘だが、自分は料理が全くできない負い目がある。            えくぼの見える笑顔が可愛い、ケーキが大好きな女子。 × 沢島 誠司 三十三歳 洋菓子メーカー人事総務課長。笑わない鬼課長だった。             実は四年前まで商品開発担当パティシエだった。 大好きな洋菓子メーカーに就職したすみれ。 面接官だった彼が上司となった。 しかも、彼は面接に来る前からすみれを知っていた。 彼女のいつも買うケーキは、彼にとって重要な意味を持っていたからだ。 心に傷を持つヒーローとコンプレックス持ちのヒロインの恋(。・ω・。)ノ♡

王子が好みじゃなさすぎる

藤田菜
恋愛
魔法使いの呪いによって眠り続けていた私は、王子の手によって眠りから覚めた。けれどこの王子ーー全然私の好みじゃない。この人が私の運命の相手なの……?

【完結】見えてますよ!

ユユ
恋愛
“何故” 私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。 美少女でもなければ醜くもなく。 優秀でもなければ出来損ないでもなく。 高貴でも無ければ下位貴族でもない。 富豪でなければ貧乏でもない。 中の中。 自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。 唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。 そしてあの言葉が聞こえてくる。 見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。 私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。 ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。 ★注意★ ・閑話にはR18要素を含みます。  読まなくても大丈夫です。 ・作り話です。 ・合わない方はご退出願います。 ・完結しています。

冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い

森本イチカ
恋愛
妹じゃなくて、女として見て欲しい。 14歳年下の凛子は幼馴染の優にずっと片想いしていた。 やっと社会人になり、社長である優と少しでも近づけたと思っていた矢先、優がお見合いをしている事を知る凛子。 女としてみて欲しくて迫るが拒まれてーー ★短編ですが長編に変更可能です。

処理中です...