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Lesson11
しおりを挟む数日後。
「…まあ、そういうことだから。申し訳ないけど残り1カ月、宜しくね」
「はい、こちらこそ宜しくお願い致します」
朝一番に部長から呼び出しを受けた。
話の内容は、育休を取得している女性社員がそのまま復帰せず退職することになったのだと。何かと融通の利く親族関係の会社へ転職することになったらしい。もともと私はその女性社員の穴埋めだったので、これにより派遣社員ではなく正社員の女性を他部署から異動させることになったそうだ。契約上、任期を短縮することは出来ないため、私にはオフィス通販事業部の海外部門へ異動することになる。そちらの部署でも前田さんという女性社員が妊娠し、これから産休に入るということだった。
「同じフロアだけど、ほとんど営業部の人と顔を合わせることも無くなるなあ…」
…任期満了までの付き合い。
自分で作ったルールだけど、この場合はどうすればいいんだろう?毎日顔を合わせることはなくなるから別れるべきなんだろうけど、別れたくないなあ…。もうちょっと一緒にいたいなあ…。なんて思っていると案外簡単にきっかけは見つかるものだ。
その晩、桐生さんの部屋で何となく雑誌を見ていた私は開封していないDMが数通あることに気付く。彼はまだ帰宅していなかったので、後で不要かどうか確認して貰おうと1通ずつ差出人をチェックしていると何かがヒラヒラと落ちた。
拾ったソレは可愛いピンク色の名刺で。そこに印刷されていたのはわりと大手企業の社名と、女性の名前。下の方には携帯電話の番号に加えて『ぐっすり眠っているので、起こしません。また連絡して!』というメッセージが添えられている。
ああ、そうか。
この女性もこの部屋に泊まったのか。
でも私という、もっと便利な女が登場したからそのまま放置されてしまったんだ。毎日、職場で顔を合わせるから連絡が容易につき、しかも勝手に食事を作り、夜の相手もしてくれる…そんな便利な女。
あ、でもあと1カ月で毎日ではなくなるけど、そうなったら私も放置されるのかな?私の方からこうして会いに来てるから続いているだけで、会わなくなったら終わってしまうのだろうか?
…うん、そうかもな。
暗い考えに支配され始めたので、諸悪の根源の名刺はコッソリ捨てた。そして決心する。この先、何度も何度もこうして悩むだろう。彼と、彼を取り囲む女性たちのことで。嫉妬に身を焦がし、時には自分を責めて泣きながら眠る。劣等感に苦しみ、傍にいる女性たちを疑い、孤独に苛まれ…その結果、待っているのは間違いなく『別れ』だ。
だったら今のうちに、まだ傷が浅いうちに、自分から離れてしまおう。
そうだ。
1カ月後に、彼と別れよう……。
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