彼らは××が出来ない

庄野 一吹

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〈case1. 湊屋 秋穂は……〉

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「好きです! 入学式で新入生代表の挨拶をする姿を見てから、ずっと湊屋くんが好きでした。だから……私と付き合ってください!」

 人通りのない校舎裏、頬を染めながら健気な告白をする可愛らしい少女。あれは学園のマドンナ、白原さんじゃないか。
 大きな瞳とぷるんとした唇、サラサラした髪に制服を着てても主張する胸。可愛すぎる……! どこからどう見ても可愛い。男の理想をこれでもかと注ぎ込んで作られたみたいだ。

 かつてない強敵の登場に、茂みに隠れて様子を見守る俺はハラハラしていた。告白されている男の様子はここからじゃ背中しか見えないが、俺はその背に向かって必死に念を送り続ける。

 頼むから、いつも通りの返事をしてくれ!

「えっと、白原さんだっけ」

 男がゆっくり口を開いた。耳に届くのは心地よいテノール、そんな声に名を呼ばれ、白原さんは更に顔を赤くして頷く。
 可愛い、文句なく可愛い。この美少女に告白されるだなんて、学園の男なら誰もが羨む立場にいるソイツは、声のトーンも変えず驚くほど軽い調子で答えた。

「りゅーちゃんに聞いてみないとわからないから、返事はまた今度でいいかな?」

 ピシリと固まる白原さん。反対に俺はホッと胸を撫で下ろした。



 〈case1. 湊屋みなとや 秋穂あきほは……〉



「ごめん、りゅーちゃん。遅くなった」
「いいよ。それより、何の用事だったんだ?」

 嘘。聞かなくても知ってる、だってさっきまで現場で見てたし。それでもわざわざ尋ねるのは、自分の成果を確認したいからだ。

「告白されてた」
「またか……で、返事は?」
「りゅーちゃんに聞くねって言ったら、もういいって逃げられちゃった」

 意味わかんないよね。まるで相手の方がおかしいとでも言いたげな様子に同意を返しながら、必死に笑いを噛み殺す。

 
 こいつの名前は湊屋 秋穂、俺の幼なじみその1。整った顔と柔らかな物腰はまさにリアル王子様。テストでは常に学年首席で、幼い頃から続けている剣道は全国区の腕前。文武両道を地でいくすごい奴だ。
 当然のように物凄くモテる。が、こいつに彼女が出来たことは一度もない。なぜなら致命的な欠点があるので。

「そうだ。秋穂、お前そろそろ歯ブラシ買い換えた方がいいぞ」

 俺がそう言うと秋穂は素直に頷く。おかしいのは重々承知、だが俺らにとってはこれが普通だ。

「わかった。メーカーはどこのにする?」
「前と同じでいいだろ。気分転換に色は変えてみたらどうだ?」
「そうだね、何色が良い?」
「今が青でその前のが緑だったから、思いきってピンクとか」
「ピンクね、今日にでも買っておくよ。あ、明日体育なんだけど、まだ半袖でイケると思う?」
「明日は少し肌寒くなるらしいからなぁ、臨機応変に対応したらいいんじゃないか」

 少し投げやりに言うと、秋穂の眉がへにょりと八の字に曲がる。

「臨機応変って言われても……」

 それ以上言葉は続かなかったが、何を言いたいのかはすぐにわかった。落ち着きなく視線をさ迷わせ、何かを言い掛けては音にならずに口を閉じる。無意識だろうか、不安そうに俺の裾を握る姿はキラキラした王子様とは程遠く、まるで親とはぐれた子供のよう。だが俺はその様子に大層満足していた。
 縋る指を握り締め、揺れる瞳をしっかりみつめながら宥めるよう優しく言葉を紡ぐ。

「大丈夫。体育が始まる前に、俺が上着を着るべきかちゃんと判断するから」

 それを聞いた途端曇っていた表情が晴れ渡り、繋いだ手がぐっと引かれた。

「ありがとうりゅーちゃん!」

 
 出会ってから、秋穂の全ては俺が決めてきた。

 はじめはアドバイスという形から。徐々に細かく指定していくと、次第に秋穂自身も何かを決める必要があると俺に頼るようになってきた。
 今じゃ秋穂は自分が使う歯ブラシも、何を着るかも、告白にどう返事するかも一人じゃ決められない。全て俺の指示を仰がなければ不安になってしまうのだ。

 そんな男を丸ごと受け入れられる人がいる訳ない。まぁ、受け入れられた所で、俺が告白にyesと返させる事はないけれど。

 もし漫画通りなら近い未来ヒロインが現れる。秋穂は彼女に恋をするかもしれない。でも今のコイツなら、ヒロインと出掛ける時も告白する時も俺に判断を委ねるだろう。つまり、俺が許可しない限り二人の恋が進展することはない。


 つい漏れそうになる笑みを取り繕い、俺はわざとらしくため息を吐く。幼なじみの将来を案じる良い奴を演じながら。

「秋穂、そんなんじゃ彼女出来ないぞ」

 出来て欲しいだなんて、当然これっぽっちも思っていないのに。 

 当の秋穂はきょとんとした顔をした後、笑った。眉は美しいアーチを描き、目は細められ口は美しい弧を形作る。それは人々を魅了する王子スマイルだった。女子が眩しすぎると興奮していた笑みを向けられ、思わず胸が跳ねる。見慣れている俺でさえこれなのだ、本気を出せば男も落とせるに違いない。

 引き寄せられた腕に逆らわずにいれば、温かな体温に包まれた。成長した背が俺をすっぽり覆い、筋肉質な身体は少し寄りかかったくらいじゃビクともしない。「りゅーちゃん」と小さい頃からのあだ名を呼ばれ視線を上げると、綺麗な澄んだ瞳と目が合う。


「俺はりゅーちゃんがいればいいよ」



【湊屋 秋穂は判断が出来ない】



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