呪文詠唱省略

蓮實長治

文字の大きさ
1 / 1

呪文詠唱省略

しおりを挟む
 試合相手は呪文を唱えた。
 意味は判らないが、仏教のお経や、イスラム教徒のコーランの朗読のような、不思議な……どこか心地良さを感じるリズムが有った。
 しかし、僕は、唱え終るまで待つほど馬鹿ではない。
「ファイアーボールっ‼」
 相手が黒焦げになった途端……客席からは盛大なブーイング。
 数分後……それがようやく静まった後……審判は、僕の反則負けを宣言した。

 どうやら神様のミスで……僕を含めた大量の人間が突然死してしまったらしい。
 望むチート能力やチートスキル……ただし、転生先の世界を大きく変えない範囲のもの……をもらって、好きな世界に転生出来る事になった。
 僕が望んだのは、呪文詠唱なしに魔法を発動出来る能力。
「ええのか? そのスキルが許されていて、お前さんの希望に近い世界は……ここしか無いぞ」
 神様は、そう言って、和製ファンタジーRPGに良く有るような世界を僕に見せた。
 どうやら、そこでは競技化された魔法勝負が流行っていて、「競技としての魔法勝負」で上位に入れたヤツは社会的地位と莫大な収入を得られるらしかった。
「は……はい、ここでいいです」

「あのねぇ……君、異世界からの転生者らしいから、知らなかったみたいだけど、これはあくまで『競技』なの」
 僕は、転生してすぐに「魔法勝負」競技に参加したが……一回戦で反則負け。大会運営に呼び出されてお小言を言われる羽目になった。
「えっ? どう云う事ですか?」
「だから、この勝負は、ポイント制で、呪文詠唱の美しさもポイントに加算されるの。ガチンコがやりたいなら、野試合の方に行って。君みたいな転生者が多いから『転生者の参加を禁止しろ』みたいな話も出てんだよ。他の転生者に迷惑かけたいの?」

 どうやら、この世界は、異様に平和な世界みたいだ。
 ファンタジーRPGのオークやゴブリンに相当する種族は居るが……他の種族と平和共存していて、せいぜい、「小競り合い」レベルのトラブルが稀に起きるだけのようだ。
 つまりは、戦士も戦闘向きの魔法使いも要らない世界。
 戦士同士の戦いや、魔法使い同士の戦いは……完全にショーと化している。

 仕方無いので……どうやら、収入も社会的地位も落ちるけど、僕は「野試合」と呼ばれる「何でも有り」のガチンコ勝負に参加する事にした。
 こっちでなら……転生した際に神様からもらったスキルが活かせる筈だ。
 僕の最初の「野試合」は「異種格闘戦」……格闘じゃないのに格闘戦も変だけど、違うタイプの相手と戦う試合で、相手は軽装の戦士だった。
「あの……試合開始は……?」
「とっくに始まってるよ」
 その答えが返って来た時には……僕の喉笛には、相手が隠し持っていた投げナイフが刺さっていた。
「いや……とっくに終ってると言った方が客の受けは良かったかも知れんな」
 僕は死んだ。
 ちなみに、次の転生は無かった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...