呪文詠唱省略

蓮實長治

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呪文詠唱省略

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 試合相手は呪文を唱えた。
 意味は判らないが、仏教のお経や、イスラム教徒のコーランの朗読のような、不思議な……どこか心地良さを感じるリズムが有った。
 しかし、僕は、唱え終るまで待つほど馬鹿ではない。
「ファイアーボールっ‼」
 相手が黒焦げになった途端……客席からは盛大なブーイング。
 数分後……それがようやく静まった後……審判は、僕の反則負けを宣言した。

 どうやら神様のミスで……僕を含めた大量の人間が突然死してしまったらしい。
 望むチート能力やチートスキル……ただし、転生先の世界を大きく変えない範囲のもの……をもらって、好きな世界に転生出来る事になった。
 僕が望んだのは、呪文詠唱なしに魔法を発動出来る能力。
「ええのか? そのスキルが許されていて、お前さんの希望に近い世界は……ここしか無いぞ」
 神様は、そう言って、和製ファンタジーRPGに良く有るような世界を僕に見せた。
 どうやら、そこでは競技化された魔法勝負が流行っていて、「競技としての魔法勝負」で上位に入れたヤツは社会的地位と莫大な収入を得られるらしかった。
「は……はい、ここでいいです」

「あのねぇ……君、異世界からの転生者らしいから、知らなかったみたいだけど、これはあくまで『競技』なの」
 僕は、転生してすぐに「魔法勝負」競技に参加したが……一回戦で反則負け。大会運営に呼び出されてお小言を言われる羽目になった。
「えっ? どう云う事ですか?」
「だから、この勝負は、ポイント制で、呪文詠唱の美しさもポイントに加算されるの。ガチンコがやりたいなら、野試合の方に行って。君みたいな転生者が多いから『転生者の参加を禁止しろ』みたいな話も出てんだよ。他の転生者に迷惑かけたいの?」

 どうやら、この世界は、異様に平和な世界みたいだ。
 ファンタジーRPGのオークやゴブリンに相当する種族は居るが……他の種族と平和共存していて、せいぜい、「小競り合い」レベルのトラブルが稀に起きるだけのようだ。
 つまりは、戦士も戦闘向きの魔法使いも要らない世界。
 戦士同士の戦いや、魔法使い同士の戦いは……完全にショーと化している。

 仕方無いので……どうやら、収入も社会的地位も落ちるけど、僕は「野試合」と呼ばれる「何でも有り」のガチンコ勝負に参加する事にした。
 こっちでなら……転生した際に神様からもらったスキルが活かせる筈だ。
 僕の最初の「野試合」は「異種格闘戦」……格闘じゃないのに格闘戦も変だけど、違うタイプの相手と戦う試合で、相手は軽装の戦士だった。
「あの……試合開始は……?」
「とっくに始まってるよ」
 その答えが返って来た時には……僕の喉笛には、相手が隠し持っていた投げナイフが刺さっていた。
「いや……とっくに終ってると言った方が客の受けは良かったかも知れんな」
 僕は死んだ。
 ちなみに、次の転生は無かった。
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