呪詛返死

蓮實長治

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プロローグ

おれがあいつであいつがおれで

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 これ、残業申請したら、課長から何か言われんだろ~なぁ……。
 今のチームのメンバーがずっと客先常駐か親会社での作業が長かった奴らばかりだったんで、自社での規則を忘れていた。
 昨日、外注の笹川君1人を残して全員帰っちまったんだ。
 各フロアの最終退出者は正社員じゃないと駄目だったのに。
 で、他のチームの係長からクレーム。
 俺達のチームの連中の代りに笹川君の作業が終るまで残ってたらしい。
 しかも、俺達のチームで、その人と顔見知りだったのが俺だけで、俺にクレームが来た。
 俺だけが悪い訳じゃないのに。
 ところが、俺達のチームで、最終退出の手続を覚えてんのは俺だけ。
 結局、夜の一〇時過ぎまで笹川君の作業に付き合い……ところが、俺も自社での作業は久し振りだったんで、最終退出手続に手間取り……。
 やれやれ……。
 終電はまだだが、自宅の最寄り駅に辿り着く頃にはバスは、とっくに最終便が出てるだろう。
 くそ……肩が痛い。腰もだ。
 三〇過ぎた頃から、酷い肩こりと腰痛。
 まぁ、IT屋の職業病みたいなもんだ。
 この前の日曜に、行き付けのマッサージ屋に予約の電話したら……「すいません、男のマッサージ師は夕方まで空いてませんが……」。
 どうやら、行き付けのマッサージ屋の従業員の間で「肩こりが異常に酷い人」として有名になってるらしい……。
 あのマッサージ屋に行くようになって、3~4ヶ月なのに……。
 ん?
 何の音だ?
 背後うしろから?
 ズルって……何だよ?
 会社の廊下で、何で、そんな音がする?
 それに……。
 背後うしろに有るのは、さっき施錠したドアだぞ。
 気味が悪い。
 ズルっ……。
 立ち止まって深呼吸。
 意を決して振り向く。
 ほら、何も居ない。
 エレベーターのボタンを押し……。
 待つ。
 待つ。
 待つ。
 ズルっ……。
 へっ?
 ズ待ルつっ……。
 き……気のせいだ。
 エレベーターのドアが開く。
 大丈夫、大丈夫、大丈夫。
 問題ない……。
 って……。
 何だ、これ?
 ドア……閉まれ……。
 早く、閉ま……。
 クソ、間違えた、開くボタン押してた。
 く……来るな……。
 人間……なのか?
 裸……なのに……男か女か判らない……。
 おい、入ってくんな……。
 どうすりゃいいんだ?
 「それ」が顔を上げた。
 見るな。
 見るな。
 見るな……見るな……見るな……。
 ニヤリと……笑う……。
 誰だ、この男……?
 いや……違う……更に別の男の顔に変った……?
 顔が……段々と変っていってる?
 でも……いつ変った?
 顔がどんどん変っていってんのに……俺には、変ったタイミングが判らない
 どうなってる?
 今は見覚えが有る……でも……見覚えが有る顔とは……何かが……。
 あ……見覚えが有る顔な理由が判った。
 でも……変だ……。
 いや……こんな正体不明のモノが現われた上に……そいつの顔が……に変った時点で無茶苦茶だが……。
 あ……変な理由が判……だ。
 どうなって……?
 そいつの顔には恐怖の表情が浮かび……。
 たぶん……。
 俺の顔にも同じ表情が……。
 叫び……苦しがり……そして……俺の胸にも……激しい痛みが……。
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