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第三章:Here She Comes

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「え……えっと、さっきの多節鞭の使い方は……」
「それを教えるのは、基本を身に付けてからだ」
 棒術と拳と蹴りを中心にした格闘術の型を何度もやらされる。
「棒は手だけで使うな。足や腰や胸や背中の筋肉も使う事をイメージしろ」
 千明さんは、そう言いながら、見本を見せる。
 たしかにそうだ。腕や足だけじゃなくて、ちゃんと腰も動いている。
「先は長いな……」
 茶髪のボブカットがそう言った。
「誰だって、最初はそうだ。私だって、親父には二言目には『才能が無い』って言われ続けた」
 クソ女が、そう答える。
「お前が? お前の親父、どんな化物だよ?」
「伯父貴の全力と、ウチの親父の8割が……まぁ、互角って所かな?」
「化物は……化物だが……あの伯父さんが実在してる以上……それ位なら……」
「親父の体重は伯父貴の三分の二ぐらいだ」
「はぁ?」
「体重が四〇~五〇㎏上の化物より更に一枚上手の化物だったの」
「なんだ……単なる化物オブ化物か……」
「だから……私の戦い方は……純粋にウチの一族のモノじゃない。体格が似てた別の師匠の真似をしてた。で、親父はそれが気に入らずに……」
「親が、ちゃんと居るってのも、ややこしいな……」
「誰だって、地獄に居る。地獄のタイプが違うから比較が難しいだけでな」
「その齢で達観し過ぎだ」
「じゃあさ……あのハゲがランくんをボクのセンセイにしたのって……」
 2人の話を聞いてた銀髪の白人が、そう訊いた。
「伯父貴の本業は坊さんだからな。諸行無常。ウチの一族の戦闘術だって、絶えるのが運命なら仕方ないと思ってんだろ。おい、そろそろ昼飯にするぞ」
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