魔導兇犬録:HOLDING OUT FOR A HERO

蓮實長治

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第一三章:胸に眠るヒーロー揺り起せ

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「ねえ……それ……何なの?」
 あの日、親類からもらった古びたノートを真剣な表情で読んでいるクソ女に、そう訊いた。
「『治水おさみ』と『らん』」
「え? それ、貴方と貴方の妹の名前じゃ……?」
「信じられるか? ウチの馬鹿親父は、一族に伝わる武術の中の……失伝した筈の技の名前を……実の娘の名前にしやがったんだ」
「ど……どんな技なの?」
「これだ」
 そう言って、クソ女が見せたのは……たまたま読んでた格闘漫画の「刃牙」シリーズ……その中でも……。
「えっ? しのぎ 紅葉くれはの『打震』みたいな技って……本当に有るの?」
「正確には、その先だ」
「どう云う事?」
「『らん』は……その『打震』みたいな技の発展形。『治水おさみ』は返し技だ」
「どうやったら出来るの……」

 相手に拳や掌底を撃ち込む直線的な動き。
 それを腕で捌く円の動き。
 だが、それは腕の先端しか見ていない者の視野が狭い見方。
 打撃も捌きも基本は同じ。一見するとコンパクトな動きを……しかし、全身の筋肉をフル稼動させて行なう。
 見た目は格好良くも派手でもない……私が「魔法少女」になろうとしていた頃とは正反対の事……。
「やるのは突き技や蹴り技と思うな……たまたま掌底が最初に敵に当たるだけの『体当たり』の技だと思え……って言われたんだけど」
 そして、ここ大阪に来る間……言われた事を練習したけど……所詮は付け焼刃だ……。
「駄目だ。『起こり』が見え見えだ。奇襲か……ある程度ダメージを与えた相手への止めにか使えないな」
 練習相手になってくれてた沙也加ちゃんのお兄さんからは厳しいコメント。

 そして……今……。
「いくよ……『1、2の3』で」
「うん……」
 全身に……「気」が満ちている。
「1……2の……3っ‼」
 沙也加ちゃんが電撃を放つ。
「があああ……ッ⁉」
 バチバチを音を立てながら……あたし達に近付いてきた熊男の胸の辺りに青白い光が見える。
 そして……。
「行けぇっ‼」
 貯めた「気」の全てを筋力UPに使う……。
 魔法で攻撃すれば……返される。
 なら……魔法による直接攻撃をすれば、倒れるのはこちら。
 でも、魔法を物理攻撃の威力を上げる事になら使えなる。
 そして……体当たり……。ただし…………
「ぐ……ぐわ……?」
 あたしの棒……いや槍が熊男の脇腹を貫き……。
 熊男の全身の毛が抜け始め……人の姿に戻り……。
「や……やった……」
 緊張が一気に解けて……力も……抜け……。
「馬鹿ッ‼ 気を抜くなッ‼」
 えっ?
 熊男じゃなくなった熊男が……必死に前に進む。
 熊男の腹を貫いている棒をつたって……熊男の血が……あたしの手に……。
 そして……熊男の動く方の手だけは熊のままだった……鋭い爪が……あたし目掛けて……。
 ザクっ……ザクっ……。
 銀色の体毛が変化した刃が……熊男の右の頚動脈を斬り裂く。
 もう1つ別の刃が……熊男の左胸を貫く。
「あ……え……えっと……」
「だ……大丈夫だったの?」
 熊男の息が止まり……そして……倒れ伏していく中……あたしと沙也加ちゃんは間抜けな声をあげる。
「ああ……電撃が体まで到達しないように……体毛の特性を変えた……つもりだったが、思ったより巧くいかなかった」
「骨や内臓まで斬られてません。ただ、わざとズタボロの切り傷になるような刃で斬られたんで、傷口が塞がるのに時間がかかっただけで……」
「うそだろ……」
「何か……おかしいと思った……」
 ところが、何とか回復したらしい魔法使い系の人と……クソ女の親類が……「やれやれ」と言った感じの声。
「良く見ろ……この顔。『熊社長』は六〇過ぎの筈なのに、こいつの顔は……せいぜい五〇……」
「じゃ……誰?」
「顔を照合した。『熊社長』の甥っ子の1人で……中国の青島チンタオの『子会社』を仕切ってる奴だそうだ」
「な……何ですか……『甥っ子の1人』って? えっと……こんなのが、まだ、あと何人か……」
「いいお報せだ……こいつクラスの『何人か』は、今、ここには居ないようだ」
 クソ女の親類が指差す方を見ると……凶暴パディントンの手下達は逃げ出してる最中だった。
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